066.非常口の向こう(6)


 言いたいことがあれば、と自身を指差した。

「何でも言え。聞きたいことがあったら、何でも聞け。そんで、逃げたくなったら、外じゃなくておれんところに逃げてこい。……こんなところで煙草吸いやがって、自分で自分の首絞めてどうするんだよ、お前」

 そう言うと、吸っていた煙草を靴裏に押し付けて消した。ツァリは目を丸くして、メイオンを見やる。匂いのきつい煙草のお陰で、ツァリが吸っていた痕跡など跡形もなく消えてしまっていた。

 メイオンはツァリに歩み寄り、彼女の足元にあった吸殻を拾って、ツァリの手に握らせる。それから力一杯、平手でツァリの頭を叩いた。

「金輪際、こういうことはするな。吸いたくなったら、やっぱりおれんところに来い。隠れて吸える所を教えてやる」

 それからふっと笑うと、「授業に戻れ」と言い、仔犬を引き連れて踵を返す。ツァリは何かを言わなければならない気持ちにかられて、「噂は」と声を張り上げた。それに引き止められるようにして、メイオンはツァリを振り返る。

「……噂は本当。私は本当に、人を殺したの。でも、これだけは誓って言える。私は衝動で人を殺したりしない」

 メイオンは表情一つ変えず、ぽつりと問うた。

「……お前の出身って、南部だったか」

 ツァリは言葉に詰まり、頷くだけに止まった。

「……なら、なおのこと、ここで満足するまで勉強していけ。おれのことは非常口代わりに考えろ。……ここはお前の故郷とは違って、いつまでも安全なんだ」

 それだけを言うと、メイオンは軽く手を振って再び歩き始めた。その後を仔犬が跳ね回りながらついていき、段々と茂みの向こうに姿を消していく。

 喉の奥にいつもつっかえていた言葉を吐き出せたからか、ツァリは張り詰めた気持ちが弛むのを感じた。小さく息を吐いて、空を仰ぐ。

 外ではなく、身近なところに見つけた非常口の向こうには何があるのか、初めて興味を持てそうだった。


終り

- 110 -

[*前] | [次#]
[表紙へ]


1/2/3/4/5/6/7/8


0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -