065.集団生活(1)


 人間というものは、非常に面倒な生き物です。

 二本しか足がないためか、皆、とてものんびりと動くのです。折角、もう二本の足が体の両脇についているのだから、それをもっと上手に動かせばいいのに、私のように上手く立ち回ることが出来ません。……とは言っても、私の四本の足もまだ小さく、大人のようには動かせないので、よく転ぶのですが。これは秘密です。

 頭がはるか上についているせいか、人間はよく物を見落とします。もっと地面に近いところに頭があれば、わからなくなることはないのに──それも私のような、よく利く鼻を持てば言うことはありませんが、贅沢は言いません──足元を見失って、よく躓きます。よく転んでもいます。よく、何かにぶつかってもいます。というか、人間が何かにぶつかっていないところなど見ないくらいに、人間はいつも忙しく、何かに躓いて、転んで、ぶつかっています。

 ちょっと心配になって声をかけようとするのですが、人間は足元から聞こえる声が嫌いなようです。少ししゃがんで、私と同じくらいの目線になってくれればいいのに、それもしてくれません。なのに、人間は私に、自分たちの言葉が通じないんだと言って、いつも拗ねるのです。ずるいです。私が拗ねたいぐらいなのに。

 でも、中にはしゃがんでくれる人間もいます。「かわいい」とか「えらいね」という声をかけながら笑ってくれると、私はとても嬉しくなります。ご飯を貰えるともっと嬉しいです。遊んで貰えると飛び上がりたくなるくらい嬉しいです。だから、間違ってもらしてしまった時はごめんなさい。心は本当に喜んでいるのです。ただ、見えないところから手を伸ばすのはやめて下さい。本当は好きなのに、蛇だと思って牙を立ててしまいます。

 そうすると、人間はいつも怒ってしまいます。時には泣いてしまいます。そうして離れていってしまいます。それがほとんど。その時の私は蛇が来たと思って、本当に恐ろしくて、死にたくなくて、心臓がばくばく言っていて、人間の表情を見ることが出来ません。いつもならちゃんと顔を見上げるのに、その時だけは、どうしても出来ないのです。

 そうして、後で空を見上げた時、泣きたくなります。ああ、どうして謝れなかったんだろうと。だから、今、ここで謝らせてください。あの時はごめんなさい。

 人間は耳がよくないのか、そのお陰で頭の回りもいくらか遅いのか、よく私に向かって話しかけてきます。多分、私の耳がとても良いからなのでしょう。だから、私は精一杯、人間の話を聞こうとします。あなたの目を見て、一言一句もらすまいとして耳を立てています。あ、でも私の耳は垂れているので、そうは見えないようです。

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