(無題)


 乾いた大地を歩く。雨の季節にはまだ遠く、照り続ける太陽は時に憎しみすらわき起こした。元来、緑の少ない地に、必要以上の陽光は毒以外の何物でもない。
 黙々と歩く少年の姿は、さながら陽炎のようだった。
 遠慮がちに浮かぶ雲の合間をぬって顔を覗かせる太陽を目にし、少年は立ち止まる。
 外套が風にはためいて、大きく膨らんだ。乾いた風を含んだ衣服はさらさらと流れ、静かな音が耳を打つ。驚くほど何もないこの風景を歩き、これから人を捕えに行くなど、幻のようだと思った。
 幼なじみというのだろうか。世間でそう言うところの間柄だったと思うが、向こうがそれ以上の感情を持った目で少年を見始めた時、彼は迷うことなく一歩退いた。相手の目を受け止めてしまった時、二人の関係が名も知らぬものへ変容してしまうのが怖かった。
 だが、変容は別の形で訪れた。
 足元でくすぶっているだけだった火が炎となり、内乱へと膨れ上がった頃、少年の家と彼女の家は敵対した。家力で既に絶対的な差があった両家の衝突は数日で決着がつき、勝者は高らかに謳い、敗者である彼女の家は滅んだ。
 一族もろとも死に絶えたと聞いた時、どこかでほっとしたものだが、彼女が落ち延びて生きていると聞いた時、嘘であってくれと願った。
 敗者の末路は生きていることを呪いたくなるほどのものだという。嘘であることを望みながら、隣街で捕えられたという「彼女」を確かめに──そして本人であるなら捕えるために、この足は動いている。
 もし再会したら、彼女はきっと、恨みと憎しみを込めて自分を見るはずだ。少年が彼女の立場ならそうするし、そうしてくれた方が気が休まる。そうでなければ、彼女の誇りと尊厳のために殺める時、自分の心がどこまで耐えられるかわからない。
 それだけ弱く、脆い。だから、彼女を連れて逃げようなどという考えは浮かばなかった。そんな大それた事をするなら、共に死んだ方がましである。
 踏み出した足が、雑草を潰していた。ようやく地表に出たばかりの幼い草は、茶色いばかりの大地で鮮烈な緑を放つ。単調な景色に慣れた目には少し痛かった。

 太陽はまだ白々と輝いている。体は温めても、頭の芯は氷のように冷えきっていた。
 これと同じ光が彼女にも訪れるようにと願わずにはいられない。
 それこそ、この大地に許された奇跡だと思った。




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