第五章 覇王
「あそこの王は馬鹿だ。ならば頭の良い者が国を動かすのが道理だろう。威信だのにかまけていると国が傾くぞ」
丁度数年前のリファムのように、と暗に含む。
隣国の王を馬鹿呼ばわりする豪胆さに、顔を青くする様子もない家臣の様子を面白そうに眺め、男は続けた。
「それで?」
「と申しますと」
「私に君主論を説くために来たわけではあるまい」
家臣の男は嘆息と共に言葉を吐き出す。
「……使者が来ております」
「羽持ちか」
「言葉を慎んで下さいませ」
「本当のことだろうが。いいから連れてこい、ベリオル。待たせると煩い」
ベリオルと呼ばれた家臣は一礼すると踵を返し、足早に退室する。誰もいなくなった玉座の間で、男は軽く息を吐いて肩の力を抜き、微かに体を前に乗り出した。肘掛に置いた手で頬杖をつく。そう長く待つことはないだろう。
果たしてそれは事実となり、やがてぴたりと閉じていた扉が微かに口を開いた。その隙間から滑り込むようにして二つの人影が現れる。白い外套に身を包んだ一方の人影を確認し、男は微かに笑った。
外套の人物はベリオルを扉の前で下がらせる。一礼して静かに去る後姿を見送り、扉の向こうへ消えるのを見計らって目深く被っていたフードを取った。その下から現れた鋭い瞳が玉座の男を射抜く。
ゆっくりと歩き出し、怒気をはらませた口調で言う。その低さから男であることが窺えた。
「……羽持ちと言うか」
「上手く隠したものですな」
「人は異形を嫌うだろう」
「お心遣い感謝いたします」
そう言いつつも頭を下げることはしない。外套の男は微かに口角を上げて笑った。
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