第四章 長い道
「もうやった。……斬るのも時間の問題だな」
こんな寂しい笑い方をする奴だっただろうかと、ハルアは愕然とした。震える声を叱咤して言う。
「……これからどうする」
「リミオスさんが俺を側近に推してくれるらしい。ありがたく乗るよ。アスにも会えるだろうし」
「会ったら?」
また小さく微笑んだ。
「……明日は早いんだ、もう戻っていいか」
返事を待たずに歩き出し、横を通り過ぎるライの背にハルアは一言だけ声をかけた。
「後悔しないんだな」
足を止め、ライは首を巡らしてハルアの方を向く。月明かりに照らされたライの金髪が美しくも妖艶に輝いて見えた。ハルアは思わず息を飲む。
こんな。
──こんなに細い奴だっただろうか。
昼間に出会った彼とは桁外れに違う。日向の存在であることを証明するように、その笑顔も振る舞いも輝かしいものだった。
だが、今目の前に立つ男は何者だ。自分が知るライとは違う。幽鬼と称した方が正しい。
しばらくの沈黙の後、ライははっきりと返した。
しない、と。
+++++
自分の足音を聞きながら思案の淵に立つ。
憎まないでいられる術があるなら教えてほしい。
あの大津波。
予言書の中の「救え」という二文字が脳裏にこびりついて離れない。
もし、アスが自身も読めることを知っていたのなら、あの街も人々も──シスターもティオルも誰もかれも沈まずに済んだのかもしれない。真に読める者ならばそうするに足るだけの力があるはずなのだ。自分はそうではなかったから、出来なかった。
だが、自分が真に読める者であったなら迷わず助ける。その力を行使する。
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