番外編 王城狂想曲
イークに惹かれ、イークに登用されたのなら、イークがいなくなった王城に意味はないと考える者も出てくるのではないか──それは自分にも言えることだと、ラバルドは胸の奥がぎゅうと締め付けられるような思いを感じながら、想起した。
イークだけを中心にして王城が回るようではいけない。
──もしいなくなってしまったら、ここはどういう城に変わるのだろうか。
しかし、とラバルドはずっと頭の片隅にあった疑問を口にした。
「……それとこれが、一体どういう関係が?」
「大ありだ。陛下の負担を少しでも我らが負うことが出来れば、それだけ長く陛下の御世が続く。それがリファムのためだ」
馬面の男は大真面目に続けた。
「職務に関しては我らが、私生活に関してはどなたか適した方がお支えすれば、尚の事よい。それが我らの本懐であり、努めだ。全てはリファムと陛下のためである」
「………はあ」
そのためには、と賢人がラバルドを指差した。
「お前にも協力してもらう」
「ご遠慮申し上げます」
「陛下の御為に働くことが出来るのだぞ」
「己の職務に勤しむことで、陛下のお役に立てているという自負がありますので、それ以上の活躍は先達の皆様方にお任せしたいと思います」
眼鏡の男が視線を落としながら、ぼそりと呟いた。
「……お前の未来もかかっているというのに」
「陛下なき後の未来は、その時の自分に任せるつもりです」
馬面の男は視線を中空へ投げかけた。
「去る時に誰が傍にいるのか考えたことはないのか……」
ラバルドは不穏な空気が自分を取り巻こうとしていることに気付いた。
「何を仰りたいのかわかりかねますが」
賢人はこれ見よがしに溜息をつく。
「……お前、侍女のシャルが好きだろう」
ラバルドは自身の顔の筋肉が硬直するのを感じた。
「我らも年だ。思ってもいないことをうっかり話してしまうこともあるやもしれぬ。例えば衛兵などに話せば、一日と経たずに王城中に話が広まってしまうだろうなあ……」
「心の中では嘘かもしれぬと思いながらも、さも真実であるかのように話してしまうかもしれん」
賢人の言葉を馬面の男が継ぐ。ラバルドの硬直した顔面に冷や汗が噴き出た。
「噂好きの衛兵どものことだ。話の真偽など確かめもせず、話は尾ひれに背びれ、胸びれまでついて勝手に泳ぎだすかもしれんな。それこそ陛下のお耳に入ればどうなることか……」
──必ず、その話で遊ぶに決まっている。
その様子がまざまざと浮かび上がったラバルドの隣で、眼鏡の男が眼鏡をずらして指で目を拭いた。勿論、涙は出ていない。
「なんと惨い……!」
「あなたがたは鬼ですか!?」
だん、と、ラバルドが円卓を強く叩いたことで、彼らの作戦は見事成功となった。
イークは腕組みをし、内心に渦巻く疑惑と焦燥をどうにか鎮めることに努めた。
──それも、使われていない客間のクローゼットの中で。
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