番外編 王城狂想曲



「……あの、愚見を申し上げてもよろしいでしょうか」
 ラバルドは回想から現実に戻り、どうにかしてこの怪しげな会議から逃げ出そうと考えた。
 三様の瞳がラバルドを見つめる。
「僕は関係ないのでは?」
 ぴしり、と空気の割れる音がした。
 途端、右隣に座した眼鏡の男が声を荒げる。
「なんと無責任なことを! 陛下のことが心配ではないのか!」
「そちらの方面の心配は我々がすることではないと思うのですが」
「ああ……」
 立ちくらみでもしたかのように眼鏡の男はくらりと机に肘をつき、小さな頭を支えた。
「一番の側近であるお前がそれだから、陛下も本気でお考えにならないのだ……」
 痩身の男は無言で頷く。大きな頷き方が勘に障るが、意味もなくあたることの出来る相手ではない。
 ラバルドの正面に座った「小人の賢人」が、むっちりとした指を顔の前で組んだ。
「我々の仕事は陛下のなさる事が円滑かつ素早く進行出来るようにすることだ」
「……側近に召し上げられる際、幾度となくお聞きした事ですが、それが」
「その通り。しかしながら、陛下のお仕事を支えるだけが我らの仕事ではないのだ。我々は陛下のご身辺も同時にお守りせねばならん」
「それは衛兵の仕事と存じますが」
「力に頼るだけの守護はいつか崩れる。我らが求めるのはそうではない、もっと陛下の私生活に深く関わる話だ」
 つまり、と必要以上に溜めた後、賢人は強い口調で言い放った。
「我々は早く! 一刻も早く、陛下にご結婚相手を見つけて頂きたい!」
「……」
 ラバルドはいよいよこの場から抜け出したくなった。
 しかし、そんなラバルドの意など全く介さず、三人はそれが非常に重大な任務であるかのように切々と語りだす。
「リファムという大国を治めるには非常に多くの気力を使う。王としての陛下をお支えするのは我らの役目としても、私生活における陛下を暖かく支えることが出来るのは我らには無理な話だ」
「出来ることならお支えしたいのが本心ではあるが、それでは体裁がつかぬ」
 腕を組んで言う痩身の男を見やり、体裁云々の問題ではないだろうとラバルドは内心で大きく溜息をついた。こんな男四人に私生活まで囲まれれば、イークでなくとも発狂する。
 眼鏡の男は落ちてもいない眼鏡の位置を気にしながら、小さな声で言葉を継いだ。
「独り身の王は他国にとって付け入りやすい存在なのだ。その隣に座す王妃の位を多くの権力者が狙う」
「……陛下は女狂いに走るようなお方ではないと存じますが」
「だから、その点は何とも思ってはいない」
 端的に否定されたことをイークが知れば、どういう顔をするだろうか。

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