番外編 祭の日に



 確かに、法力の明かりで照らされているとはいえ、全てが見通せるほどの明るさではない。しかし、こちらを捉えたように見えた青い瞳の印象は、あまりにも強かった。
 いまいち、はっきりとしない様子で頷くアスを見て、ライは小さく息を吐く。
「ま、注意はしとこう。あの王様が俺らを捕まえてどうこうしようとまで考えてるかは、疑問だけど。問題は側近がどういう顔ぶれになるかだな」
「ライには見当ついてるの?」
「さあ。俺が王城にいた頃だって、そういう人事に興味を持てるほど情報は与えられてなかったし、離れて長いしな。知ってる顔があるかどうかぐらいだと思う」
「適度にほっといてくれるといいんだけどねえ」
「しつこいのはグラミリオンぐらいでお腹一杯だよ、俺も」
 乾いた笑いを共に浮かべると、はた、と気づいたようにライが顔を上げた。
「そういや、グラミリオンにネドファリアの船が着いたって話があったよな」
「ああ、さっきの屋台での?」
 アスが頷いて返したのは、先刻、少しだけ覗いた屋台で店主と他の客が話していた事である。
 グラミリオンとネドファリアの交流はさほど珍しいものではないが、このところ、その頻度が高くなっているとのことだった。そして、その中に魔法師もいるらしい、という話がライの興味を引いたのである。
「船に法力や魔力を使える人間を置いとくのは常套だけど、魔法師がいるって、はっきり話に出たのを聞くのは初めてじゃないか?」
「今までもいたけど、たまたま聞く機会がなかっただけだと思うけどなあ……」
 まあ、と言ってアスは小さく嘆息する。
「ネドファリアは魔法師の存在そのものを、あまり明らかにしてこなかったから、名前が出たってこと自体はそれなりに珍しいと思うけど。本当にそうかどうかはわからないよ」
「大陸じゃ魔法なんて見る機会もないしなあ。ちょっと見てみたいよな」
 アスはじっとりとした視線を向ける。
「グラミリオンに寄って帰ろうとか言うんじゃないよね」
「勿論、万全の注意を払って」
「そういう問題かなあ……」
「今日はここに泊まって、明日グラミリオン経由で帰る。それでいいだろ」
「バーンが怒るよ」
「あいつならそこまで織り込み済みだよ。行こう」
 樽を下り、アスの手を取って促す。そして返事も待たずに歩きだした。
「……せっかくの里帰りなんだ。もっといたいしな」
 振り返って言うライに、アスな頷いて返した。
 新たな王の誕生を祝う祭は続き、色とりどりの明かりや飾りがひしめく中を、二人は笑いながら歩いて行く。
 故郷に抱いていた恐れや哀しさを、少しずつ、懐かしさと愛おしさに変えながら。



終り

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