番外編 祭の日に



 あっという間に歓声の渦に囲まれたアスとライは苦笑いを交わしつつ、輿の人物を見る。
「……本当に若いなあ」
 艶やかな黒髪と、晴れた海のように澄んだ青い瞳が印象的な少年だった。まさに、「少年」と形容するしかない容貌である。
「見えるか? フード取れば?」
 体を伸ばしたり傾けたりして見ようとするアスへ、ライが言う。
 アスは一瞬、動きを止めてライを振り返った。
「大丈夫かな?」
「平気だろ。どうせ誰も見ていやしないって」
 そう言いながら、ライはアスのフードを取ってしまった。途端に広くなった視界にアスは驚くが、確かに、ライの言っていることは的を射ていた。皆、新王の少年に夢中で、背後を振り返ろうなどという酔狂な人間はいないようである。
「な?」
「前もって取るよとか、何か言おうよ……」
「言っただろうが。ほら、王様来たぞ」
「まだ戴冠はしてないでしょう」
 言いながら、目の前を通り過ぎる少年王を見る。黒髪に頂く王冠はまだないが、身なりの豪勢さ、そして人々の歓喜の声に応える仕草は既に、王のそれであった。まだ戴冠はしていないが、「いずれ必ず」といった確信めいたものを感じさせる。
 穏やかそうな顔立ちは、やはり母親譲りなのだろうか、と思いながらアスが見ていると、ふと、その青い瞳がこちらを捉えたような気がした。それまで押し並べたような笑みを浮かべていた顔がほんの少し変化し、その変化が驚きによるものだとわかっても、アスは目を反らすことが出来なかった。
 代わりに笑みを浮かべて軽く会釈をすると、少年王は心なしか嬉しそうに微笑み、一回だけ手を振った後には、またあの王の仕草へと戻っていった。
 輿がしずしずと目の前を通り過ぎていくのを追いかける人もいれば、それぞれに散っていく人もおり、アスとライの前も段々と人の往来が多くなっていった。アスはフードを被り、首を傾げる。
「……何か、ばれたかも」
「ばれたって、誰に」
「今の子に。目が合って、驚かれた気がする」
「……気のせいじゃないのか」
「だと思いたいんだけど……」
「俺らのことを聞かされてないってわけじゃないだろうけどな。あの距離とこの暗さじゃ、気のせいだと思うけどなあ」

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