番外編 風来る



 一矢報いたと喜びかけたラバルドだが、次の瞬間、イークの表情に言い過ぎたと察し、頭を下げた。
「……出過ぎたことを、申し訳ありません」
「いい。本当の事だ。大体、ライノットのような頼りない男を選んだことが私は気に入らない」
「……ご自身でお選びになった方なのですから、それは陛下が腹を立てる事ではないでしょう」
「選ぶにしても、もっと男はいる。アスのことだ、近場で選んだわけではない。決してな」
「それはそれで、アスラード様に失礼なのでは」
「一国の王の申し出を蹴ったのだ。あれも気にはしない」
 だから面白くない、というのが本音でもあった。
 特定のものに固執することは、国以外ではないとイークは思っていたが、いざそんなものが現れてみると、手に入らなかったことへの悔しさは否応にも増す。それで心身を崩すほどの繊細さがイークに備わっていれば、また話は変わるだろうが、生憎と国王という職業はそんな繊細さを奪うには十分な役職であった。
 アスが傍を離れるのは、イーク自身が思ったよりも悔しい。そんな心中をアスが気にしておらず、その理由として、イークの申し出の意味を完全に履き違えているに違いないという現実が、イークの中にどうにもやり場のない感情を生み出す。
 おかげで、そのとばっちりをラバルドが受ける羽目になるのだが。
 ラバルドは存外に子供らしい部分を見せる主に内心で大きく溜息をつき、相変わらず風の吹き込む窓の前に立つ。
「閉めますよ。よろしいですね」
「それで、お前が来た用事は何だ」
 窓を閉め、ラバルドは部屋の惨状ですっかり追い出してしまっていた、本来の目的を取り戻した。
 それを原因であるイークによって思い出すとは、と苦虫を噛み潰すような気持ちと、仕事を忘れていたことで落ち込む気持ちの均衡を何とか保ち、悔しさに変えて頭を下げる。
「……陛下の所為で大変申し遅れましたが、お客様がお越しになっております」
「責任転嫁は推奨出来んな」
 ラバルドは頭を上げた。
「どなたの所為でそうなったとお思いですか」
「さっさと呼べ。以後、このような失態はせぬよう精進することだな」
「……」
 ラバルドは何かを言いたそうな表情を浮かべたが、何とか堪え、執務室の扉を開いて廊下へ声をかける。
「こちらへ」
 扉と共にラバルドが道を開けると、廊下から鮮やかな金髪の青年が笑いを噛み殺して入ってきた。

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