第四章 長い道
返ってくる言葉はない。独り言を言っているようで何とも物寂しい気分になり、バーンは盛大な溜め息をつくとゆっくりと馬を動かした。
乱暴な扱いは褒められたものではないにしろ、ほぼ不休で馬を走らせたためにリファムへはあと一つ街を抜ければ良い。良い、と言っても太陽が沈む時刻は避けられない。それだけ一緒かと思うと気が滅入る。
せめてちゃんとした女であるならば、と内心愚痴をこぼした。
アスは確かに女である。華奢な体の作りに柔らかな感触は女そのものだったが、初めて出会った時も思ったように、女であることを拒んでいるようだった。どんな理由に由来するものであるにしろ、果たしてそれは思惑通りであった。バーンにとってアスは女ではなく、今現在はお荷物でしかない。
国軍に対しての立ち回りはいい戦力になるかと思えたが、話さず動かずのアスの相手をするのは正直骨が折れる。どこぞから拾ってきた猫を相手にする方がまだましだ。
目の前に差し出された問題は忘れかけていた疲労をバーンに思い出させた。いやに重く感じる肩を揉み解していると、遠く向こうで蹄の音が響く。重なって聞こえるそれを仲間のものと認識し、バーンもわずかに馬の腹を蹴って足を速めた。
──ちょっとの辛抱だ。
自分に言い聞かせる一方で、ふと思う。
一度目はあの丘で、そして二度目は雨の中で。
重なった邂逅。
これは必然なのだろうか、と。
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エルダンテ北東に位置するそこは恐ろしく起伏の激しい地域であり、波打つ街道は旅人に決して優しいとは言えない。
どこからか落ちてきたのかと思うほどに巨大な岩、拳大の石、それらが連続して道にあれば不規則な波が道を覆う。
始めは一刻も早くアスとの時間から脱しようと快調に馬を飛ばしていたバーンだったが、次第にその道の悪さに閉口し、やがては疲れ始めた馬をのろのろと動かすのみとなった。馬の扱いに慣れているとはいえ、この道は悪すぎる。
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