第四章 長い道
「何があった」
カリーニンは大きな肩をすくめる。
「どうもこうも。エルダンテの国軍が山狩りをして動きがとれない。何かを探してるようだが……まさか、そいつじゃねえだろうな」
疑いの目でアスを睨むカリーニンを見据えた。
「こいつはオレが連れて行く。お前は皆を連れてリファムに向かえ」
「街道を?」
「ああ。オレは少し離れて行く」
少し離れて。仲間にいらぬ火の粉をかけぬために口をついて出た言葉だが、それは暗にアスが国軍の目的であることを示していた。
どうあっても譲る気のないらしいバーンに向かって嘆息する。
「カリーニン、馬は」
「森だ。すぐ出れる」
「なら少し先まで森の中を進め。それから街道に出ろ」
「盗品は、どうする」
「半分は棄てろ。残りの半分は馬に背負わせて森に放せ。国軍の目をオレらに向けるわけにはいかない。行く時は旅芸人を装えよ」
「お前は?」
泥と赤黒い染みまみれの少女を連れて、言い訳する術などあるのか。言外にそう含ませて言うと、バーンは身を包んでいた泥だらけの外套を脱ぎ、微動だにしないアスに頭から被せた。
「オレの口の巧さをなめるなよ。早く行け」
笑顔の首領を前に返す言葉はない。嘆息したカリーニンは気をつけろよ、とだけ言うと森の中に消えた。
カリーニンはバーンの右腕であり、良き理解者である。何を聞こうとも、何を反論しようともバーンの考えに理解を示す。心配する素振りは見せても足を引っ張るような真似はしない。強固な信頼関係のもとに成り立つやりとりに安堵しながらカリーニンが消えた先を見送り、次いでアスを見下ろした。
「リファムに行くからな。お前の身の振りはそれからだ」
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