第二十九章 彼らの冬



 アスは静かに問うた。

「止める?」

 二人の賢者は互いに視線を交わし、頭を振る。

「あたしたちにあんたを止める権利はないわ」

「……わしもリリクも、そなたの意志に従う」

 アスは泣きたいような笑いたいような表情になり、ありがとうと言った。

 すると、オッドの銀色の瞳がアスを見据える。

「もし」

 静かな声が風に乗った。

「……もし、アルフィニオス神書のオリジナルを読みたければ、わしはそなたに見せる用意は出来ているのだがね」

 アスは少しだけ目を丸くしたが、やがて考えるように視線を賑やかな一角へ向けると、そちらへ顔を向けたまま言葉を返す。

「ライはそれを読んだ?」

 やや間を置いてから、オッドは肯定した。

 返答を聞いたアスは視線を二人に戻し、口を開く。

「なら、いい」

「……そうか」

 体中にある空気を全て吐き出すのではないかと思うほど大きく息を吐き、オッドは穏やかな顔をアスに向けて手を伸ばした。

「……そなたに会えて良かった。ありがとう」

 その小さな手を握り返し、アスは顔を近づけて囁く。

「カラゼクから伝言だ。……あなたはやはり、賢者にしかなり得ないってさ」

 とろんとしていた顔に驚きの表情が宿り、だが、次の瞬間には子供らしからぬ苦笑を顔に浮かべていた。

「だろうな」

 オッドに小さく笑って返すと、アスはリリクへ向き直る。オッドを抱きかかえている為に両手がふさがっているので、アスは軽くリリクの背中に手を回して抱き、それを挨拶とした。

「もう少し早く会えていたら、もっと色々話せたと思うけど」

 体を離してそう告げると、リリクは女の表情を捨て、凛々しい顔つきに笑みを浮かべた。

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