第三章 嘘



 少年はようやくアスの全身を馬上に引き上げて、段々とライを引き離していく。激しく地を蹴る音をどこか遠くで聞きながら、ライは手の中を見た。

 血で汚れた白い羽。

 馬を追いかけるライに囁いたアスの言葉が耳にこびりついて離れない。

──私はもう。

 ライを見る目に光はなかった。同じような目で自分もアスを見ていたのかと思うと、胸の奥が締め付けられる。

──誰にも許されない。

 その言葉はアスを縛るものだろうが、同時にライをも縛りつけた。

 馬の姿はもう見えず、足跡を消すように雨が激しさを増す。ぬれそぼる髪から次々と水がしたたり落ち、手の中の羽についた血を少しずつ洗い落としていった。

 首飾りが切れた時、決定的に二人の道はわかれたのである。

 後々、彼らは思い知る。

 今日この瞬間に、運命が動き始めたのだと。



三章 終

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