第三章 嘘



 力なくそれらを一瞥し、剣を投げ捨てる。異様に軽い音をたてて剣は水溜りに落ち、バーンを包囲していた兵士らも唐突な脅威の出現に動けずにいた。

「……私は誰も救わない」

「それは君が決めることじゃない。もっと強い者が決める」

 ライノット、とリミオスが馬上から呼びかける。しかしライには聞こえなかった。

 ただ突然の兵士達の死に怒りが体の内を満たし、知らず、地を蹴っていた。

 ぼんやりと肉薄するライを見ていたアスだったが、視界に飛び込んだ白い一閃を目にするや後ろに跳び退り、死んだ兵士の剣を握って二撃目を受ける。

「何で斬った!何もしていないのに何故!」

 どくん、と耳の奥で拍動の音が響き渡る。

 そう、斬った。

 あの人たちを斬った。

 彼らを、私は。

 水溜りに混じりゆく血に半身を浸し、累々たる死体はうろんげな目をこちらに向けていた。

──私が。

 アスの剣が震え、耳障りな音をたてる。

「……私は、もう」

 力のこもらない剣は段々と手を離れ、終いには地に落ちた。

 相手が誰であるという意識はとうになく、怒りに任せて剣を振り上げた時、リミオスの制止の声と剣を弾く盛大な音が被さる。

 手に強い衝撃を受け、視線を上げた先で騎乗した金髪の少年が黒い剣を持ちながら、呆然とするアスを抱えあげた。

「貴様……っ!」

 走り出し、馬上に引き上げられるアスの手をつかもうとする。しかし、馬の俊足に人間の足が追い付くはずもない。

 伸ばした手は宙に躍るアスの首飾りを掴んだだけで、そしてそれも馬の速度があがるにつれて耐え切れず、大きな音をたててひきちぎれた。

- 72/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -