第一章 二人



 紙面の一文を読み上げて少年に渡す。少年は紙が破れるのではと思うほどに強く握り締め、見入った。やがて文字を追っていた目の動きが終着点へと辿り着き、彼は嬉しそうな声をあげる。

「予言書ってやっぱり本当だったんだね」

「……嘘だと思う奴なんかいないさ。予言書はエルダンテの国宝であり秘宝。かのアルフィニオス神書に勝るとも劣らぬ力を持つというじゃないか」

 アルフィニオス神書、という単語にライの耳がぴくりと反応する。しかし言葉を発したのは小太りの女だった。首を傾げ、溜め息をつきながら言う。

「どうかしらねえ。わたし、あのアルフィニオス神書って未だに信用出来ないのよねえ。書いた人もわからない本のどこがありがたいんだか」

「そこに神秘性があるのさ」

 男の声に熱がこもる。眉をひそめてみせる女に、自分の弁舌を披露する機会を得たとばかりに目が光った。

 彼は露天商という肩書きを掲げながら、実は話屋と言ってもいい。商売であちらこちら流離いながら集めた話を聞かせて料金を頂く。道端に広げている商品の殆どは客引きのためであり、稀に売れようものなら、してやったり顔で他の商品も勧める。

 だから話の腰をあっさり折った少年の出現により、彼の本当の商売は一度、中断を余儀なくされた。だが商売の神は彼を見放さなかったようである。話好きの女が彼を救い、その上、目の前の少年は予言書に興味があるようだ。王都で手に入れた噂話に尾ひれでもつけて話せば、いい客になるだろう。

 そう腹の中で算段をつけた時、少年は軽く挨拶をしてその場を去ろうとしていた。

──何だ、ひやかしか。

 そうは思っても客が一人減っただけである。視線を転じれば、噂に飢えた女たちがまだ立っていた。

 だが。

「おばさんたち、夕飯の用意しなくていいの。夕刻の鐘、鳴っちゃうよ」

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