第二十五章 奪還
スプーンをくわえたバーンがにやりとしながら言う。
「そうだ。散々言い争って決めた配置だからな、兵士よりも私の方が詳しい。だから玉座の間を目指す三人には私とバーン、イルガリムに来てもらう」
「私とライとジャックは陽動組?」
「お前の力は桁知らずだ。適当に塀でも壊して混乱させておけ。そうでなくてもお前が現れたとなれば、それだけで充分混乱の種になる。ライとジャックはアスラードを援護しろ」
「何か嵐の目にでもなった気分だな。混乱の種、って嬉しくないよ」
ぼやいてみせるアスにイークは笑った。
「お前の力を見せ付けるいい機会だ。自分が何者なのかを世間に教えてやれ」
「私は私でしかないよ」
溜め息混じりに返答すると、「それでいい」という答えが返ってきた。
「……わかった。ところで、どこまでなら壊していいのかな」
「玉座以外ならどこまでも構わんが、限度は知れよ」
笑い声があがる面々を見渡し、イークは一つ一つの言葉をかみ含めつつ言う。
「とにかくスピードが勝負だ。早ければ明朝には早馬で知った軍が引き上げてくる。それまでに玉座を奪還するぞ」
彼らは静かに頷きあい、すぐさま行動に移った。
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湖の近くで城は停止し、明かりも消して静かなそれは、暗い闇の中で静かにうずくまる。
馬を駆けながらアスはちらりと振り返った。あの雨の日にも大きな城を背景に馬を駆けていたが、とても心細かったように思う。今は違う、と隣で馬を駆けるライを見た。
すると、視線に気付いたライがアスを向く。
「どうした」
木立の間を可能な限りの速さで駆けている為に、自然と口調も早くなる。視線を前方に戻したアスはいや、と答えてから言葉を続けた。
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