第二十四章 片翼
「私が呼んで連れていってもらったんだ。イークに言う?」
「……言ってほしくなさそうな顔をして言うな」
「出来れば」
「私も言うつもりはない。出来ることなら私も詫びたかったが、それはお前も彼らも許さないだろう」
手袋をはめ終えて、アスは背後を振り返った。
「……彼らは誰にとっての敵だったんだろうね」
答えるでもなくぽつりと呟かれた言葉は重く、俯いたイルガリムは何を思ったか、近くに落ちていた木の枝を何本か拾い上げ、先刻までフィルミエルが横たわっていた場所に土を盛り、そこへ交差するように配置した枝を突き刺す。
「墓でもないと、遺体がどこにいったか言及されたら言い訳出来ない」
根っからの真面目がアスの嘘へ加担すると言う。その言葉もその行動も驚きに値し、目を丸くして見ていると、アスを振り返らずにイルガリムは低い声で続けた。
「誰も、誰かにとっての敵にはなりたくないものだ。だが、誰かが自身の正義を主張した時、必然的に敵は出来る。つまりは正義の数だけ敵もあると私は考えている」
だから、と即席で作った墓標に触れる。
「我々がすべきことは、死んでいった者を忘れないことだ」
ざらりとした木肌は、触れた手に微かな痛みを残した。
死を覚える痛みもこういうものだろうかとアスが考えていると、城の方から呼ぶ声がする。振り返ってみれば、裏庭に面した出入り口からライが声を張り上げていた。
「王城が見えた!そろそろ動くから集まれって!」
共に振り返ったイルガリムと視線を交して苦笑し、二人は墓から離れた。
その背後で流れた風が交差させた木を鳴らし、からからと音をたてる。
忘れないで、と、言っているようだった。
二十四章 終
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