第二十四章 片翼
「これは彼だけの気持ちだ。誰にも言わないよ」
その時、苦笑して放たれた言葉にフィルミエルの声が重なり、アスは矢に射抜かれて途切れた言葉の先を聞いた気がした。
──これは僕だけの気持ちだ。
「……やっぱり、似てるよ。三人は」
泣きたいような笑いたいような気持ちになりながら言う。
ソンは「当たり前だろう」と言ってふわりと舞い上がった。
「僕たちは同じなんだから」
苦笑まじりの言葉を残し、小さな背中が空へと吸い込まれていく。白い姿は鳥のようで、そこに抱える悲しさを思えばただ辛いだけの光景だった。
冷え込む風に容赦はなく、アスは一つ息を吐くと、投げ捨てていた手袋を取りに踵を返した──その時である。
「……イルガリム」
一部始終を見ていたらしいイルガリムが固い表情でそこに立っていた。思えば、フィルミエルを撃った時から一度も彼とまともに顔を合わせていない。アス同様、イルガリムも避けていたようだった。
しかし、今度は逃げるつもりはないらしく、歩み寄って手にしていたアスの手袋を渡す。
「……そうどこにでも捨て置いていい物ではないはずだ」
固い声も相変わらずで、どこかでアスはほっとした。
渡された手袋をはめつつ、言葉を探すイルガリムへ助け舟を出す。
「全部見た?」
「立ち聞きするつもりはなかった」
どこまでも真面目な男らしい。そういえばこの戦いに関わる事を決めた理由も、カリーニンに言われた「後を頼む」との言葉に従ったと言っていた。言葉の有効期限は既に終わっているのに、と言うと、半分はキサへ話すためだという。里が気になるだろうに、忠犬のような考えに苦笑したことを思い出した。
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