第二十章 そして再び風は吹き
「ロアーナ、おれ大盛りな」
添え木をした右腕を吊るしながらの明るい声は場を和ませ、それに救われたロアーナは軽口で応酬する。
「少しは血の気も抜けて馬鹿な事もしなくなるんじゃないの?」
「おれ若いから。残念ながらそう簡単にはいかねえなあ」
「若さにかまけて軽はずみなことをすると、長生きしませんぞ」
ジャックの斧の刃を研ぎながらバルバストが言う。
「なら爺さんは慎重派かよ」
「そう生きてきたつもりですが、率いる人間が私とは全くの正反対な人間なもので。一言に慎重派とは言い難いですな。……さて、これでいかがでしょう」
ロイに掲げさせてジャックへ確認を促す。
焚き火に照らされて輝く刃にはこぼれがなく、隙のない研ぎの技は見る者を吸い込むような迫力があった。
感嘆の息をもらしたジャックは身を乗り出してバルバストに言う。
「すげえな。エルダンテの職人でもこうはいかねえよ。あんた職人だったのか」
「今でも現役のつもりですがね。それにしてもあなた方の剣は悲しくなるほど刃こぼれがひどい。まめに見てやらないと剣も泣きますぞ」
はは、と笑ったジャックの向こうで、同じように話を聞いていたハルアも笑う。
「剣を研ぐ研がないの暇もありませんでしたから。面目ない」
「バルバストの腕はグラミリオンにも引けを取らねえ。あんたら運がいいよ。いつもならしっかり金を取るんだからな」
ジャックの側に斧をたてかけつつ、ロイが囁く。その様子から過去にたんまり取られたことがあるのだと想像がいき、一同に笑いが起こった。
一緒に笑ったザルマは鍋で煮えるスープを乾燥した固い果実の殻に注ぎ、近くに立つサークとヴァークに配るよう渡す。その一方で後ろを振り返り、声を張り上げた。
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