第十七章 おかえり
木に叩きつけられたジャックには斧を掴むだけの意識も──また、折れた右腕にはもう何かを持つことすら絶望的だった。辛うじて上下する肩に一同、安堵するも、一瞬にして二人の戦闘能力を奪ったフィルミエルの強さには恐怖を覚える。
地面に虚しく突き刺さる剣が、跳ね返ったハルアの血を受けて鈍く輝いていた。
ライに期待は出来ず、かといってカリーニンに期待してもいけない。
唯一、フィルミエル自身の快楽の為に残されていたアスこそが、この状況を打破出来る可能性もあるが、アスにはその策が浮かばなかった。
──生きなければ。
どうしても、この先に進まなければならない。その為に邪魔なものは取り除くが、圧倒的な力の前に自分に出来ることと言ったらどうだろう。
こんなにもないものか。
『時の神子』とは大層な肩書きだが、それを頂いた自分にフィルミエルを倒すだけの力も覚悟もない。
生きるため倒さなければと思うのに、アルフィニオスの名が意志を縛る。
彼がアスの過去を知っているという確信があった。だから、斬るための一手が出ない。
──どうしたら。
汗ばんだ手で柄を握りなおした時、フィルミエルを挟んで構えていたカリーニンが何を思ったか、剣を大きく振り被り、フィルミエルに向かって振り下ろした。その細身を斬ることは出来なかったものの、途端に凄まじい剣圧で草や土が一斉に舞い上がる。
強力な一撃で舞い上がった土は視界を悪くし、遠くでライが咳き込む声が聞こえる。目を細めて辺りを窺っていたアスも咳き込みつつ剣を離さずにいたが、突然目の前に現れた影に、剣を振り上げる余裕もなかった。
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