第十七章 おかえり



 勝たねばならない、生き延びなければならない──そう思ったアスの顔に浮かんだ表情を見て、フィルミエルは大きく跳躍して離れながら、高らかに笑った。

「本当にお前は望んだ通りの人間だよ!浅ましく、生きることに貪欲で、どこまでも利己的だ!ようやっと殺し甲斐が出来た!」

 宙で一回転して再び地面に戻った時、笑顔は既に消えうせ、その顔に浮かぶのは紛れもなく憎悪であった。

 紅い瞳が血の色を帯びる。

「アルフィニオスは人間のどこに心惹かれたんだろうね。全く理解に苦しむよ」

 鋭く言い放つフィルミエルの背後に隙を見たのだろう、気配を殺して近づいたハルアが剣を振り下ろす。だが、それがフィルミエルの肉も、髪の毛の一筋も断つことはなく、勢いづいた剣は地面を穿っただけだった。

 慌てて剣を引き抜こうとするも、頬を柔らかな風が打ったと思いきや、腹部に激痛が走り、それが鎧ごと腹部を貫くフィルミエルの手だと気付いた時には既に投げ出されていた。

「ハルア!」

 二転、三転してようやく動きを止めたその体からは毒々しいまでの赤が流れ続け、まるでその軌跡の如く、フィルミエルの足元からハルアまで点々と血が続く。声を上げたジャックは駆けつけようとする足を踏み止め、手についたハルアの血を舐め取るフィルミエルへ突進した。

 馬鹿だね、と、紅い瞳が笑った。

 細い胴を断つかと思った大振りの斧は空を切るだけに止まり、一瞬にして消えた姿を探していると、ごき、という嫌な音と共にジャックの体は軽々と吹き飛ばされる。

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