第三章 嘘
子供の頃からの夢を現実のものとし、ハルアは輝いて見えた。
「休みなのに制服?」
「朝一で招集がかかったんだ。その後で馬すっ飛ばして来たんだぞ。ありがたく思え」
やたら恩を売りたがるハルアに閉口し、気だるそうに尋ねた。
「招集って、何かあったの」
「祭りの警備。と、隣国の状況」
自分の木剣をいじりながら答える。
後半に穏やかでない響きがあった。
「良い話じゃなさそう」
「あまりな。リファムがどうもきな臭い」
「リファムが?」
エルダンテ北西から西にかけて広がる大国だ。その勢力は大陸随一と言われ、軍事、政治において右に出る国はない。そのどれも数年前に即位した新王によるものと言われているが、事実が定かではないため噂の域を出なかった。
その大国と唯一拮抗状態を保てると言われているのがエルダンテである。政治は怪しいものだが、軍事においてはリファムと肩を並べるほどであり、特に実力制である神官の水準はエルダンテの方が遥かに高い。
過去において矛を交えたこともあったというが、現在は穏やかな関係にある国である。
「あそこと対等に渡り合えるのはうちぐらいなもんだからな。向こうだって気にしてる」
「……ああ」
「それにほら、予言書」
誰もいないのにも関わらず、ハルアは声をひそめた。
「気にしてるらしいな、一応。ライのことも」
「ライも?」
思いがけない名前の登場に思わず変な声をあげる。ハルアは呆れたように言った。
「読めるのはライだけだろうが。それにあまり穏やかでない言葉もあったろ、予言書に」
「そうかな」
「救え、なんて何か起こるのを前提にして言うもんだ」
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