第三章 嘘



 突き刺すような陽光に目を細めていると、不意に大声が響き渡る。

「遅い!」

 段々と慣れてきた目が映し出したそこはだだっ広い野原で、柔らかな草が足元をくすぐった。そよいだり止まったりを繰り返す風は穏やかに髪を揺らし、ついでとばかりに箱にも触れていくものだから、たちが悪い。お陰で思うように歩くことが出来ず、岩に腰掛けるハルアの元へ辿り着くのにえらく苦労した。

 渋面のハルア相手に何を言っても無駄なような気もしたが、それでもあるいはと微かな希望のもと口を開く。

「おばさんに捕まってさ」

 言って箱を示す。

「私の所為じゃないよ」

 ティオルの花嫁衣裳であるということぐらいはハルアにも察しがつくだろうと思ったが、どうやら甘い考えだったようだ。

「言い訳無用」

 ばさりと一言の内に切り捨てられ、これ以上の反論は無駄だと悟ったアスは素直に謝っておく。ここで言い返して口論となっても建設的ではない。

 アスの考えなど露ほども知らず、ハルアは満足そうに頷いてから上着を脱ぎ、アスに傍らの木剣を渡した。しかし、アスの視線は木剣をすり抜けて上着へ注がれる。

「……制服のまま来たの?」

「何だ、その顔。折角の休みをお前の為に割いてやってんのに」

「好きじゃないなあ……それ」

 ぼやくアスに、ハルアはひどく心外そうに顔をしかめた。

 ただの制服ならばともかく、エルダンテ国軍制服は赤を基調とした明るい彩色の制服だ。上下合わせて着ていると目立って仕方がない。

 そう、ハルアはエルダンテ国騎士となったのだ。十八歳になった途端、運良く行われた試験に見事合格してみせたのである。決して易しい試験ではないにしろ、合格するだけの実力が彼にはあったということだ。はたして、幼少の頃からの大人たちによる噂は事実となったのである。

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