第十六章 対話の刻



「……」

 どれだけ早く出発し、追撃から逃れようとしても、ライとの再会は免れない。その時、自分はどんな顔で迎えることが出来るだろうか。

 どうやって、帰れと伝えよう。

「ここにいたのか」

 思案にふけっていたアスを、低い声が呼び止める。顔を上げた先で、外套に身を包んだイルガリムがこちらに向かってくるのが見えた。濃い靄の中では、その姿が余計に大きく見える。

 白いカーテンを越えて姿を現したイルガリムは、既に旅支度を整えてあった。

「出かける前に『岩窟の処女』が話をしておきたいそうだ。私はお前の仲間を起こしに行く。その間に済ませて、旅装を調えるんだ」

 アスが頷くのを見ると、イルガリムは小屋の方へさっさと歩いて行く。あの躊躇いのない足さばきならば、起こす時も躊躇なく大声で起こすことだろう。嫌々起きて抗議するヴァークの姿が想像でき、アスは小さく笑ってキサの元へ向かった。

 そしてその想像に違わず、靄の奥に消えたアスの背中で、イルガリムの大声とヴァークの抗議の声が響き渡ったのである。


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 痛む腕をさすり、ガットは苦々しい思いでソンを睨みつける。だが、当人はそんな視線など露ほども気にしていないようで、平然とした顔でその眼光を真っ向から受けた。

「随分、深く刺さったようだね」

「お前一人がさっさと逃げなければ、こうはならなかった」

「僕を頼りにしてるのかい?」

 くすりと笑って目を伏せる。

「ありがたく受け取っておこうか」

 罵声を上げようとしたガットを制し、フィルミエルが珍しくソンを睨む。

「……狩猟用の矢を使いやがった、あいつら」

「人間の目には獣同然に見えたんだろう。笑うしかないさ、「天」の遣いが獣扱いとはね」

「ソン」

 苛立った様子のフィルミエルにも傷は残っていた。

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