第二章 予言
「会いに行けたりしますよね」
「そこまで束縛するつもりはないよ」
少し息を吸って頭を下げ、ライはお願いしますと言った。
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王城に泊まると良い、という申し出を丁重に断り、宿に戻るまで──戻って手伝いをしている間も、二人は一度も言葉を交わさなかった。というよりアスが言葉を発しなかったというのが正しい。ライが何度も会話を試みたがどれも不発に終り、一人劇を演じるのも嫌になった時、見かねた宿主が二人を早々にあがらせた。
だが、宿主の気遣いも虚しくそれぞれベッドに入るまで口を開くことはなかった。
部屋の両端に位置するベッドの間をわかつように、窓から月の光が差し込んでいる。
「アス」
壁に顔を向けたまま言う。なに、とアスも壁を向いたままようやく声を返した。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
「何で黙ってんの」
「別に」
ベッドの中で少し身じろぎする。
「怒ってるじゃんか」
語気の荒さが静かな空気を震わせた。
窓辺からの冴える月の光は白く、部屋の一部を切り取る。そこだけが何も変わっていないように見えた。
──わからない。
不満があるなら言ってほしい。何かが嫌なら言ってほしい。今までそうしてきたことを突然拒否されてはわからない。
アスが掛け布団を引き寄せたのがわかった。
「怒ってないよ、本当に」
微かにアスを振り返る。
「怒ってないからね」
「……うん」
「祭りの時とか来るんだよ」
「行くよ」
「シスターが寂しがるから」
「会いに行くよ」
「絶対だからな」
「うん」
その後、二つ三つ言葉を交わしてようやく眠りに入る。心身共に疲れ果て、ライなど話さなくなったかと思いきや既に寝入っていた。
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