第十一章 その手のひらに
動物の革や木々で作られた簡易テントの群れが鎮座し、なめしたのであろう革は陽光を鈍く反射する。そこここには飯炊きのために築かれたと見える、石を積んだだけの竈があり、鍋が置かれながらも今は出番を待つかのように静かにしていた。
道すがら、簡単に自己紹介を済ませた女はジルと名乗り、大きいほうの息子はヴァーク、その弟はサークという。
総じて肌の色が濃い人種なのだろうか、突然の来訪者にあちこちから顔を覗かせる人の顔も肌もジルたちと同じく色が濃い。男女問わずに程よく筋肉のついた体躯は移住の過酷さも窺えた。ジルに先導されて歩く二人に皆、一瞬、驚きはするものの、やがてにこりと笑って会釈し、それぞれの場所に戻って談話や作業に専念する。客が珍しいというわけではないらしい。
テント群の最奥、他よりも一回り小さいテントの前に二人を案内し、ジルはてきぱきと火をおこし始めた。仏頂面の抜けないヴァークも渋々といった体で水を汲みに行き、母を手伝う。唯一残ったサークは手持ち無沙汰に立っている二人を見かね、竈の周りに並んだ流木に座るよう促す。普段から腰掛代わりに使っているのだろう。限られた部分が磨り減っているのを目にし、カリーニンはわずかに微笑む。
ようやく腰を落ち着けた二人を見て満足そうに笑い、サークはカリーニンの横に腰掛けた。
「ねえ、珍しい?」
「ああ……まあ、まさか移住の民に出会えるとは思わなかったからな」
「ふうん」
二人のやりとりに気付いたジルが振り返り、くすりと笑う。
「今じゃもう数少ないからね。魔物も多いし。定住する一族だって多いよ」
「だろうな。移住の範囲はリファムの中だけか」
ジルは頭を振る。
「基本的にはグラミリオンとルマーの往復さ。この時期だけはグラミリオンとの境に近い、この辺に来てる。気候的にはエルダンテが一番住みやすいんだろうけどね、あそこは得体が知れないから」
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