第十一章 その手のひらに
進展しない会話に終止符を打つかの如く、少女が一歩前に出る。
「ソンはやらなくていい。神子はあたしが殺すんだから」
「相変わらずご執心だなあ」
茶化す男を少女は横目でねめつけた。それに構わず、同じ赤い瞳の目を細めてガットは笑う。
「あんまりしつこいと嫌われるぜ、フィルミエル?」
「誰によ。もう死んだ奴が出す口なんて無いわ」
「その通り」
静かに言い放ち、ソンと呼ばれた少年は二人を見据える。その瞳もまた赤く、さらさらと揺れる髪はフィルミエルに比べて色素が薄く、ガットに比べて細い髪質だった。
血に似た赤い瞳、色調は違うが似たような金髪、磁器のような白い肌。顔貌こそは違えど、その姿を構成するもの全てが三人は似ていた。あるいは似すぎていると言ってもいい。
自分によく似た二人を見て、ソンは軽い嫌悪感を抱かずにはいられない。
──ヘイルソン、あなたは。
「幸い、僕たちは誰よりも神子を追うことが出来る。死んだ奴が口出す暇など与えなくていい」
言いながら、ソンは座っていた岩の上からふわりと下りた。
「……行くよ、僕の片翼たち」
フィルミエルはにこりと微笑み、ガットは多少嫌そうに手を差し出す。その手は暖かく、ソンの手よりも大きく感じた。握り返す力も、自分の小さな手が滑り落ちないようにとの心遣いのようで嬉しい。
──でも、ヘイルソン。
風が自分の周りに巻き起こるのを感じながら、ソンは静かに目を閉じた。
──あなたはまだ、自分を憎んでおられる。
+++++
広い川岸だった。緩やかな流れの川に沿うようにして裾を広げるそこは小さな石ばかりで、足裏で感じるその感触は少々くすぐったい。川の流れから多少離れるようにしてその集落はあった。
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