第七章 一歩
その時に、と腰に手をあてた。重さがない腰はどこか心許ない。剣を探し出さねば。
「歩け!……まったく、何でこんな奴を」
それは自分が言いたい台詞だったが、生憎自分から声を捨てた。内心激しく頷きながら、どうにか温まってきた体を動かす。
その時、今まで歩いてきた廊下と雰囲気が変わったことに気付いた。それまで歩いてきた廊下よりもはるかに広く、装飾も少ない。目にしてきた装飾品が嘘みたいなほど、あっさりとした廊下だった。不思議と肩が強張る。
広い廊下の先で、もう一つの廊下と垂直に交わっている。そこに扉はあった。思わず唾を飲み込んで見上げたそれは、荘厳な雰囲気を伴ってアスを迎える。上等な樫で出来た扉だったが、やはり装飾は少ない。
控えの兵士二人が扉を開いた。扉のイメージそのものの重厚な音を伴って、ゆっくりと開く。
光がこぼれた。
赤い絨毯が扉から延々向こう側まで続く。その先に階段があり、最上段に金で装飾された玉座──そして黒髪を長く垂らした男が頬杖をついていた。
男の横に立つ青髪の男が声を張り上げる。
「こちらへ」
アスを連れた兵士は一礼し、腕を掴んだまま進む。足取りに緊張が見えた。緊張と、この場に対する畏怖と微かな恐怖。どちらに対してだろうと視線を巡らす。
青髪の男は冷徹な顔でこちらを見下ろしている。まとう衣服も簡易なものだ。顔の筋肉一つ動かさないさまは人間離れしているようにも見えるが、それが側近であることを如実に語っている。リミオスとは正反対の人物であるように見えた。
もう一方、と視線をずらした。だが、先刻まであったはずの姿は玉座にない。驚愕を表に出さぬよう、その姿を探したが、最上段に姿はなかった。
- 133/862 -
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
[表紙へ]
0.お品書きへ
9.サイトトップへ