第七章 一歩



 大きく息を吐きながら、上半身を起こした。だが、どこの牢だろう。領主の屋敷にこんなものがあったとも思えない。アンカーを出てしまったのか。

 参ったな、と顔をしかめる。バーンたちと無事に合流出来るだろうか。

「早くしろ」

 いらいらと兵士は牢の鍵を開け、アスの腕を掴んで立ち上がらせた。急に高くなった視界に驚き、また、後頭部に疼痛を覚えて膝を折る。二回、それもその内一回は力一杯殴られたことを思い出した。

 だが、兵士はアスの事情など知らんとでも言いたげに鼻を鳴らす。力任せに引き上げ、引きずるようにして牢から出した。おぼつかない足取りのアスを歩かせるのは、骨が折れるのだろう。ぶつぶつと悪態をつく姿にアスはどこかで共感していた。


+++++


 殺されるのか、それともまた別の展開があるのか。どちらにせよ牢を出たことは幸いだった。地下なのか別棟なのかわからなかったが、階段をいくつも上ったことから地下なのだと推測出来る。乱暴に歩かされながらも、自分がいる所の把握に余念がない。

 上等な絨毯、美しい金の装飾、白い壁、見事な美術品の数々。一領主の屋敷とは到底思えない贅沢品の乱舞は、痛みをさらに疼かせた。幼い頃に見たあの城を思い出して嫌になる。もっとも、あちらの方がセンスは良かったが。

 大きな窓からは外が上手く見えない。ぎしぎしと悲鳴をあげる体を庇うよう、前屈みになって歩いているのが災いした。だが、木々も見えないともなると、それなりに高い場所にいる──つまるところ、建物自体が高層を誇っているのだろう。

 出会う人間は兵士の方が多く、時折見かける使用人は皆、品が良い。もしや、と嫌な予感が首をもたげる。だが、まだそうと決まったわけではないと自分を勇気付けた。隙を見れば逃げ出す機会もあるだろう。

- 132/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -