第六章 その陰を知らず



「ぐらつくんじゃねえの」

「おれなら、めとってずらかるね」

「でもバーンだぞ?面白みのない女とるか?」

「賭けるか、おい」

「のった!」

「俺も!」

「めとる方に千」

「おれ、三千」

「あたしはめとらない方に一万」

「……お前、貯めてんな」

 他人のことであればあるだけに、賭けは面白みを増す。思いがけず仲間の懐具合を知ることになり、再びひそひそと盛り上がる仲間を横目に、カリーニンは庭に足を向けた。

 見事な庭だった。季節の変化に応じて様々な花を愛でられるように、多種多様な植物が植えられ、今は暖かな時期に咲く花々が束の間の繁栄を誇っている。鮮やかな花弁が目に眩しい。

 次の時期に咲くであろうものたちは、それまでの力を温存するかの如く、青々とした葉を太陽に向けている。

 色彩に満ち溢れた庭は美しいの一言で言い表すには失礼な気がした。かといってそれ以上の言葉も持ち合わせておらず、大きく息を吸って漂う芳香を体に巡らす。どうにも嗅ぎなれない香りに顔をしかめたカリーニンが木の陰から出た時、二つの人影が目に入った。

 どちらも見知った顔で、しかし、片方に至っては警戒心を解かずにはいられない。未だ声も知らぬ、全身を外套で覆った少女。

──アスといったか。

 夕陽色の長い髪は目立つからとバーンに言われ、短刀で切っていた。恐らくは顔も知られているだろうからと、今もリファムに着くまでもああして外套を被ったままである。

 幸いなことに魔物にも、ならず者にも出会うことなく、故にカリーニンはバーンの言うアスの腕前とやらを信じきれずにいた。

──あんな子供が。

 ザルマと僅差で低いが、それなりに長身であり──それだけだ。そして話さず、諾々と言われることに従う。

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