第五章 覇王



「そちら様はこちらへ」

「あ、この子一緒で」

「一緒と言われましても」

 困ったように苦笑した。彼女は自分の認識のもと、業務を果たしたいだけである。ザルマはにやりと笑った。

「いいじゃない。こういう関係なんだし」

 言うや、するりと腕を絡ませる。女性は赤面して一礼し、「わかりました」と口早に言って案内に立った。腕を組んだままその後ろに続き、ザルマは小さく言う。

「ごめんね。あんた、まあまあ背があるし。部屋までだからさ」

 こくりとその人物は頷く。そこそこ長身であるザルマとは僅差で小さいが、「彼」というには申し分ない。

 案内された部屋は庭に面する二階にあり、ささやかなバルコニーからは見事な造形美を誇る庭が目に入る。

「あら凄い」

 思わず口をついて出た素直な感想に礼を述べることなく、ごゆっくりと言って女性はそそくさと退室した。

 品良く閉じた扉を目にしてザルマは笑いをこらえることが出来ず、腹を抱えながら扉の側で控える人物に声をかけた。

「もういいわよ」

 一つ頷いて頭に被ったフードを取る。

 鮮やかな夕陽色の髪は肩のあたりで雑に切られて眼光は鋭い。しかし、その容姿をまじまじと見れば女であることは明らかだった。

「街にいる間は悪いけど、顔は出さないで。あんたお尋ね者みたいだからね」

 頷く。彼女は話せなかった。

「館の中も駄目。食事は部屋に運ぶわ」

 また頷く。

「剣はー……その外套じゃわからないか。持ってなさい」

 頷く。

「後で庭見に行く?アス」

 アスは頷いて返した。



五章 終

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