第五章 覇王



 言葉の続きを待たずに頷く。要するに護衛を頼む、ということだろう。これだけ広大な屋敷なら誰だって狙わずにはいられない。

 勿論自分たちも、と内心ほくそ笑みながらバーンは満面の笑みで応じた。

「お任せを。私ども一団は腕の立つ者が多くおります。ただの一時も盗賊の侵入を許しはしません」

 領主は表情に笑顔を取り戻す。

「よし、任せたぞ。おい!部屋に案内しろ!」

 無類の祭好きである主人を持った使用人達はまたか、とくすくす笑いながら荷物を抱えた彼らを部屋に案内していく。

 皆の顔は晴れやかだった。

 ベッドで寝れるなど久方振りで──それ以上にカモが盗賊を館に招くという行為に笑うなというほうが難しい。

「……時に」

 ひそ、と領主が口許に手を添える。

「あの者は?」

 太い指が指し示した先には、頭からすっぽりと外套を被った人物がいた。赤い短髪の女性と並んで歩いている。

 バーンは心得たとばかりに頷いた。

「ああ、あれですか。あまりにも醜く、領主様が気分を害されぬように外套を」

「醜い?」

「火事にあい、顔を焼かれたため見るも無残な姿に……ご覧になりますか?」

 むずがりだした好奇心を瞬時に引っ込め、領主は顔の前で手を振った。

「あ、いや、遠慮しておこう。それよりも後で私の娘に会ってくれるかね」

「喜んで」

 領主と並んで館へ入っていくバーンの狸ぶりに、ザルマは声をひそめた。

「聞いた?火事だってさ」

 外套の中から答えはない。そこに使用人の女性が近づく。

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