三つの大陸から遠ざかった絶海の孤島、命の気配が他とは異なる世界の果て。人の決して寄り付かぬその場所には、極悪非道の大魔王ガルタニアスが封じられた「牢獄」がありました。

「あ、おかえり。今日も痛そうだな」

ぷかぷかと呑気に煙をあげる煙突に、可愛らしく赤に塗りかえられた屋根。扉を開けた瞬間漂う良い香りに、ガルタニアスは眩暈を覚えます。日の傾きから考えて夕餉の支度でしょうか、「牢獄」の中には、光魔法で炎球を調節しながら鍋を混ぜる青年が一人。そう、大魔王ガルタニアスが自ら封印されることを望んだ牢獄には同居人――もとい、魔王封印の監視役が一人おりました。

「ちょっと味見て欲しい。 塩気、どれくらいが好きだったっけ」
「…………」
「どうした……、ああ、口の中も切ってるのか? 沁みるなら」
「……違う。エルヴィス」

金の瞳を怪訝そうに細める青年の名はエルヴィス。破滅の定めを打ち破るべく生まれた救世主、光の勇者エルヴィス。

「何だよ、『父さん』」
「昨日私が何を言ったか思い出してみろ、『息子』よ」

彼の名はエルヴィス。光の勇者エルヴィス。かつての大魔王ガルタニアスが育てた、血の繋がらぬ「魔王の息子」です。





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