ロロロは戦いました。 クジラがラララを追おうとするごとに、クジラの目に体当たりをし、気をそらし続けました。
――うォおオオおおおおオおおおオおオオオおン――
クジラがほえるたび、恐怖で心臓がきゅうっとなりましたが、そんな時にはロロロの中のナナジュとラララが声を上げるのです。
([星生み]のヒツジの誇りを、) (あなたの使命を、)
守れ、成し遂げなさい、と一匹と一羽がロロロをはげますのです。その声を聞くたびにロロロは牙を剥いて己をふるいたたせるのです。 ロロロは戦って、戦って、戦って、やがてラララがほとんどの星の穴を閉じ終わったころ、ロロロはくたくたに疲れ切って、動けなくなってしまいました。もう空に浮かぶのが精一杯です。だいぶ暗くなった夜空、真っ黒いヒツジはクジラの真っ赤な口が近づいてくるのを見ました。
「な……んで……?」
ロロロのことは見えていないはずの[星喰い]のクジラがだんだんと、こちらに近づいてくるのです。クジラは見えない敵に嫌気がさしたのか、口を開いたままがむしゃらに突き進むことにしたようです。
――うォおオオおおおおオおおおオおオオオおン――
(うごけ、ない)
ロロロは力の入らないからだを宙にうかべたまま、瞳を閉じました。 そしてクジラの赤い口が大きくなってきて――、
「――ロロロー!」
ぎゅん、とすごい速さでロロロは自分のからだが落ちていくのを感じました。ラララです。ラララが、ロロロの黒い毛をくわえて、すさまじいスピードで夜空を駆けているのです。クジラは、二匹の方に頭を向け、泳ぎだします。あまりの速さに舌をかみそうになりながらも、ロロロは叫びました。
「ララ……ラ、う、しろ……!」 「あと、アレだけだ!」
――うォおオオおおおおオおおおオおオオオおン!――
一直線に落ちるラララと、それを追いかける[星喰い]のクジラ、そしてその先にある青白い星。
「手を伸ばせ、ロロロ!」
二匹は前足を必死に伸ばし、クジラは大きな口を開いて迫り、そして。
「あ……!」
そして、わずかに先に届いたラララとロロロの前足が、星の穴を閉じた瞬間。
――すとん。
世界は夜の帳が落ちる音とともに、真っ暗闇に包まれました。
――うォオおおおおオおおおオ――
[星喰い]のクジラは真っ暗になった空を不思議そうにぐるっと一回転すると、やがて山の向こうの巣に帰っていきました。
「無事でよかった」
ラララはぐったりとしたロロロを地面におろすと、うーとかあーとかうなりながら、前足で地面をかきます。
「うー、あー、あとな、さっきは、あり、ありが、あーあーあーあー」
あーあーあーとあさっての方向を見ながら続けるラララを尻目に、ロロロはふわぁと大きなあくびをしました。
「ラララ、わたし、ねむい……」 「聞け! せっかくおれが、」 『ロロロ、ラララ、お帰りなさい』
四本の足を折りたたんで眠る体勢をとったロロロの頭に、小さなカワセミがふわりと舞いおりました。
『ラララ、もうそれは明日になさい。あなたたちはこれからもずっと一緒にいるのですから』
いつでも言えるでしょう、とナナジュは優しく笑いました。ラララは不機嫌そうな顔を真っ赤をして、とろんとしたロロロの目を見ました。ロロロは一瞬だけラララを瞳に移すと、眠くてたまらないのか、ゆっくりとまぶたをおろしてしまいます。
「そ、うですね」
ぎこちなく返事をして、ラララもロロロの隣で横になり目を閉じました。 『おやすみなさい、[星生み]のラララ、そして[星生み]のロロロ』
ロロロは、むにゃむにゃと寝ごとを言ったあと、へにゃりと笑顔を浮かべました。
むかしむかし、人間たちの国のずうっと向こう、太陽の沈む場所、ドウブツたちの住むところ。そこに、夜空に星を瞬かせる[星生み]のヒツジたちがすんでいました。彼らの多くは、星を守るために死んでしまいましたが、今も黄色ヒツジと小さいカワセミ、そして黒いヒツジの二匹と一羽は、夜空に星をまき、それらを守って暮らしています。
そうそう、余談ですけれど。ロロロのごわついた黒い毛は、[星守り]の黒いオオカミたちとヒツジとの混血だからだということが成長にともなって生えた牙によってはんめいしたり、ラララはそれをしってもなお彼女のとなりに立ちつづけたりするのですけれど。それはまた、ずっと先の、別のおはなし。
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2013.0624 sato91go
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