「なら、ドラゴン。一年に一度でいい。誰かと一緒に『いただきます』って言って、食卓を囲んで、お腹一杯本物の肉を食べたい。金銀財宝なんて要らない。地位や名誉なんて要らない。ただ、生きるために精一杯、食べたい。一年に一度くらい、誰かと、食べて、生きたい。それが願い。アンタに望む、あたしの願い。」


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エイリーン・フリエラの生涯の食卓はかの竜と共に在った。

竜の友、エイリーン・フリエラの話をしようと思う。ミルクティーに一匙の蜂蜜を垂らしたようなブロンドの髪を高く結い上げ、背筋をしゃんと伸ばし、紫紺の目を勝気に輝かせる彼女はしかし、決して恵まれた境遇ではなかった。娼婦であった彼女を嘲る人もいただろう。心無い言葉をぶつける人もいただろう。弄んだ人もいただろう。けれど彼女は、どんな逆境に襲われようとも、決してその伸びた背筋を曲げることをしなかった。その重圧に負けて折れることをしなかった。

十五の時分に純白の雌竜を悪しき者から救い、それから齢八十で天寿を全うするまでの長い年月、彼女の生涯の食卓はかの竜と共にあった。それは竜にエイリーンが望んだ願いであり、竜が叶えた願いであり、この一人と一体を生かし育んできたどこまでも尊い営みであったと私は信じている。

ああ、あくまでもこの物語は断片的な記憶を繋ぎ合わせたものに過ぎないことをまずご承知願いたい。一人と一体が過ごした時間の濃さも、その時間が持つ意味も、どんなに私が言葉を尽くしたところで、本当のものは彼女たちにしか分かりはしない。

けれど、彼女たちの歴史を綴り、次に伝える事に意味を見出したからこそ、私は今、筆を執ったのだ。

そう、これは、私の、私たちの優しい食卓の話。




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