12)そう言って綺麗に笑うから

「侯爵が引き落としたこの件、王都でも結構な騒ぎになってね。まあ侯爵はすぐに捕まったんだけど」
「えぇ!?」

 ミノルを筆頭にカナエとリオンも目を剥いて驚く。
 
 今さらりと最重要事項を聞かされたような気がした。
 流してくれて構わない、くらいのさり気無さだった。
 
「それはいいんだけどね」
「いや良くはないでしょ!?」

 人の親を捕まえて何て言い草だ。
 普段はリオンだって人を貶したりするけれど、あまりの態度に瞬時に否定した。
 
「確かに彼を捕まえた人が良くありませんでした。何せ侯爵に罪を被せて罪人に陥れようとした張本人でしたからね」

 出された膳のご飯を食しながら淡々とツバキが語る。
 
 どんどんと展開していく話に誰もついていけていない。
 
 ミノルは額に手を当てて入ってきた情報を頭の中で整理した。
 
「つまり俺の父親は、クーデターの首謀者の濡れ衣を被せられただけって事か」
「だけってわけでもありませんが」

 安堵しかかったミノルにツバキが新たな不安の要素を投下する。
 
「侯爵は、或る方の見られては困る何か、又はそれに繋がる情報を入手したが為に狙われたんです。そしてその或る方に捕まってしまった。無事の保障は出来かねる状況です」

 カナエが悲痛な面持ちでミノルを見た。
 ミノルは最悪の可能性を想像してしまったのか青褪めていた。
 
 そんな二人を視界に入れながらリオンは話を聞いていて、ふと思いついた疑問を投げかける。
 
「ちょっと待て。或る方って何だ? ミノルの父親を捕まえたのは軍じゃないのか? コイツを追ってたのも軍だろ」

 猪口に入った酒を煽ったイチトが頷く。
 それを確認してツバキが再度口を開いた。
 
「一言で軍人と言っても様々です。勤勉な者から怠惰な者、平民から実力で上がってきた者や家柄だけの者、貴族官僚と癒着する者、果ては軍事力を用い国家を揺るがそうとする者」

 王都は一切の武力を軍が総括している。貴族の近辺警護に至るまで全て軍部が取り仕切っているのだ。
 彼ら以外が武装する事はまず許されない。
 
 そんな機関が王家に仇なせば王都は一巻の終わりだ。
 
「当然、軍全てが関与しているわけではありません。ごく一部の人物だけなのですが、兵卒が何百人集まるよりもよっぽど性質が悪い人が関わってしまった」

 軍部の中でも相当上の地位にある者が首謀者なのだろう。
 ここで名前を出すのを憚られるくらいに。
 
 だが重要なのは相手が誰なのかではない。
 それを聞いたところで、化外で生活しているリオン達に分かるはずがない。
 
「今は下手に此方から手出しが出来なくてね。どうしようかと思っていたら、花街に逃げた息子が虎の子を持ってるってホダカが教えてくれて」

 くつりと笑うイチトにリオンの眉間の皺が寄った。
 
 あいつ……逃げたな。
 
 ミノルが花隈にもたらしたこの騒動は、もうリオン達だけの手に負えないと判断したホダカがイチトに事情を説明したのだろう。
 
「殆ど同時にカンナの方でも動きがあったって報告が入ったし。この好機を逃す手はない」

 コン、と空になった熱燗を膳に置いた。
 
「確かにカンナを王都に呼び戻したのは俺だけど、あっちはあっちで色々あったんだよ?」

 本当に何でも御見通しのようだ。俐音が一瞬頭に過らせた疑問でさえ、イチトは漏らさず感づいていた。
 
 答えるタイミングをずらしたのは、やはり彼の性格がねじれているからだろう。
 



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