14.昨日に優る今日の花 「マジで?」 奥に行くに連れてどんどんと薄暗くなる通路。 特に変わったところのない城内と、問題児二人と別れたという安堵感から俐音達は気楽に世間話に華を咲かせていた。 「真人って双子なんだ? わーすごい私初めて会った。一卵性? 似てる? あ、片方が怪我したらもう一人も同じとこ痛くなるテレパシー的なものって本当にあるの?」 「一卵性。似てなくもない。テレパシーって……あいつとそんなキモいもん共有できっか」 「え、仲良くないんだ?」 双子は他人には見えない絆で繋がっているもの、というどこから来たのか分からない先入観があった翔と俐音は不思議そうに真人を見た。 二人に限らず、大抵の人に同じような反応をされる真人は苦々しげに顔をゆがめた。 真人の様子を見ていた俐音は、急に表情を険しくした。 「そんな……お前等いつだって一緒だったじゃないか!」 「は?」 突然、胸元の服を掴んで真剣に訴えかけてきた俐音に呆気に取られた。 「どんな地区のチームが攻めてきても負け知らずの親友コンビだろ!?」 「双子だ話を捻じ曲げんな、つーか何時の時代の不良マンガだ」 間近にある俐音の頭を片手で掴んで引き剥がす。 すると彼女はあっさりと離れた。 「入れ替わり立ち替わり、ネタ振りしないと気が済まないのかお前等は!」 「や、いきなり何もなくなると寂しいというか……」 頭を摩りながら俐音が言う。 これが自身の片割れであったなら間違いなく殴っていただろう。 二人のやり取りを眺めていた翔はクスリと笑う。 真人と俐音の口げんかなど可愛らしいものだ。 「あ、抜けた……?」 長い長い通路から、広い場所に抜けたようだ。 だが感覚的にそう思っただけで、光もなく暗い周囲ではどれほどの空間なのか把握しきれない。 「あ、電気つけよっか」 「ええぇっ! 何でスイッチあんの? 電気? この城電気通ってんの!?」 ぱち、と翔が壁に設置されていたスイッチを切り替えると、明かりが灯った。 どういう仕組かは知らないが電気は正常に通っているようだ。 メルヘンの国というのなら、もうちょっと凝った演出をしてほしいと、がっかりしている俐音がいた。 「うっわ……東京ドームで言うと何個分の広さって感じだ……」 「あれ案外分かり難いんだよね」 「てか、せいぜい体育館くらいだろ、これ」 全体を見渡して、特に魔物もいなさそうだと分かると三人は肩の力を抜いた。 先程のドラゴンのようなものが出てきたらと思うと恐ろしい。 だが明かりが点いたことによっておかしい部分が出てきたのも確か。 三人は一所を呆然と見やった。 「なんで、あそこだけスポットライト当たってんの」 スイッチを入れて灯ったのは、ホールの一番奥の一部だけ。 円形のスポットライトが当たっている物体があって、明らかに怪しい。 まるでそこに注目してくれと言わんばかりだ。 「わざとらし過ぎて興ざめする……」 「ああもあからさまにされると逆に行きたくなくなるよね」 「お前等行ってこいよ俺はいい。興味ない」 「真人ずるい!」 誰だって興味なんかあるか。 少なくともここにいる人間はそうだろう。 一人だけ楽はさせるかと、俐音は真人の袖を掴んでずんずんと奥へと進んだ。 次第にはっきりとしてくる、天蓋付きのベッド。 そこに誰が寝ているかなど見るまでもない。 疑う余地もなく三人はベッドの中を覗きこんだ。 ウェーブのかかった豊かな金の髪に、陶器のような白い肌、整ったパーツの揃う小さな顔。純白のドレス。 フォーナの言っていた通り、美貌の王女様がいた。 「なんだろう、王子様が現れたら今度は下手を打つまいとその場で婚礼を挙げて相手の逃げ道無くす魂胆が見え隠れしてるのは気せいだろうか」 ドレスだけならまだしも、手に造花のブーケを持っているのはあまりにも不自然だ。 「んで、着いたはいいがあのガキがいなきゃコイツ起こせないんだろ」 「待ってるしかないね」 「いやそうでもない」 悪巧みを思いついたように、にぃと笑う俐音に翔と真人は嫌な予感がした。 前 | 次 戻 |