13.小人閑居して不善をなす


 闇雲に通路を走りぬけ、広いホールまで来てやっと足を止めた。

 一日の運動量を遥かに超えている……

 俐音は膝に手を付いて屈み、荒い呼吸を沈めようと何度も深く息を吸い込んだ。

 まだ顔を上げるまで体力が戻ってこない。
 けれど視界に入ってくる他の者の脚が異様に少なく、聞こえてくる呼吸も人数の割りに小さい気がした。

 重たい身体を持ち上げてみれば、そこにいたのはたった二人、真人と翔だけだった。

「あ、れ……他の奴らは?」
「はぐれちゃったみたいだね」

 答えたのは、唯一涼しい顔をして立っている翔。

 ほんのりと上気した頬が、いい運動をしましたという態を表してはいるが、あくまでも軽くといった程だ。

 見た目は華奢で体力など無さそうなのに、この人間離れした身体能力は何処に隠れているのだろうか。

 俐音がじろじろと観察している間に真人も回復し、三人は改めて現在の状況を考える。

「どこではぐれたんだ、全然気付かなかった」
「オレもだよ、でもまぁ向こうは大丈夫だろうね、戦う事に関してのプロが揃ってるし」
「その一点だけな」

 はっと真人が鼻で嗤う。
 俐音と翔は答えず、それとなく下を向いた。

 確かに獣に遭遇したとしても、魔法を操るラスティと軍人のリュート、それに人間離れした身体能力の持ち主の倖の三人ならば何の問題もないだろう。
 
 問題があるのは、それ以外の部分だ。

「大丈夫じゃないのはラスティの胃くらいか……。さっきもキリキリするって言ってたのに、あいつ一人でやってけるのかな」
「諏訪部さんも暴走さえしなければ……」
「してるだろ初っ端からフルスロットルだろ、峠道で死のカーブと見ると駆け抜けたくなる奴ら並の暴走っぷりだろうが!」

 翔も彼女の目の輝き方がいつもと違う事くらいは気付いていたから、これ以上は食い下がらなかった。
 
 同じテンションのリュートに会ってからは更にそれが増したのも分っている。

「休んでる時間はなさそうだね」

 気休めを言っても仕方がない。
 少しでも早く合流出来るようにするしかないのだ。


***


 一方その頃の倖達は

「はーい吸って吸って吐いてー」
「ひっひっふー、お母さんもうちょっとよ頑張って」
「誰が産気づいたか!! 酸欠って言ったんだよ、そんなときにツッコミ入れさすな!」

 床に手と膝をついた姿勢でえづきそうなほど疲労困憊しているラスティの背を摩る、リュートと倖の遊びに素直に乗ってしまい更に息が切れた。

 そんな事をやっている間も他のメンバーがやって来ないところを見ると、ただ単に遅れているのではなく全く別の道へと進んで行ってしまったのだろう。

 俺一人にこいつ等押し付けて楽しやがって……

 態とではないにしろ、この偏った割り振りに恨み言の一つも言いたくなる。

「えーそんな一人で気負わなくても大丈夫だよ、基本私もツッコミだからね」
「その言葉が既にツッコミを必要としてるだろ!」
「まったく……先程からボケだの何だのと意味の分からん事を」

 後ろを向いていたリュートはラスティ達の方を振り返ると、ほとほと呆れ果てたという体で息を吐き出した。

 それを見たラスティは苛立ちを抑える為に拳を握り締めた。

「だったらその鼻メガネはどういう事だっ! どこから拾ってきやがった、どこの仮装パーティに行くつもりだコノヤロウ! 死ね!!」

 ラスティはリュートからいつの間にやら掛けていた鼻と髭がセットになっているメガネをぶん取った。

 あ、と残念そうな顔になったのに腹が立ち、地面に叩きつけて壊す。

 倖はメガネを掛けたリュートがツボだったらしく、その場にしゃがみ込んで笑い続けている。
 手で地面をばしばしと叩く倖にリュートは満足気だ。

 カチリ

 倖が床のある一点を叩いたとき、何かが合わさるような音がした。

「……なに?」

 地面から僅かな振動が伝わってくる。
 少し遅れて、ごごご、と壁が動き出した。

「隠し扉か」

 完全に壁が移動しその奥を覗き込んだ三人は、中に入る事を躊躇した。

「なんなんだ、ここ……」




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