11.三人寄れば文殊の知恵 「ま、目的達成しないと帰してもらえ無さそうだし、やるっちゃやるけどね」 真人の胸に裏拳をかまして俐音が涼しげに言う。 ジロリと無言で睨まれたが素知らぬ顔だ。 「別にフォーナのためにやるんじゃないんだからね! 家に早く帰りたいだけなんだから!」 「いきなりツンデレ!?」 「わー俐音ちゃんいっぱい引き出し持ってるね」 立ち上がった倖は服についた土を払った。 他のみんなも既に移動する準備を整えていた。 このままじっとしていても事態は好転しないどころか、夜が明けても帰れない。 ならばさっさと王女とやらを起こしてしまおうと、自然と全員の意見が一致した。 「出発するの?」 前方から歩いてくる翔の声だ。散歩から戻ったらしい。 その問いに倖が大きく頷いた。 「ていうか光城くんいなかったんだ、全然気付かなかったよ」 「……人数、多いもんね……」 翔が抜け出したとき、倖はもう俐音と学校に絶対いそうな女子ごっこをしていて、全く見ていなかったのだ。 一応声を掛けてから行ったのだが、倖は完全にスルーしていたらしいと知って、翔は項垂れた。 そして倖はあまりにも正直にそれを本人に伝えてしまったものだから、俐音とリュートが翔を哀れむ目で見やった。 「俺もまだまだ修行が足りないな……これしきの事で涙腺が緩むとは」 「これしきって言わないでくれる?」 「ああいけない、私も目から亀の産卵のごとく体液が」 「涙って言いなよ。生々しい体液って」 軽く流すなり、聞かなかった事にして欲しかった翔は手で目元を拭う二人に羞恥からくる怒りをぶつけた。 「何やってんですか、お三人さん! ……もう、置いて行きますよ?」 「君が何やってんの、どうして泣いてるの」 呆れた風な口調とは裏腹に、フォーナもばっちりと瞳に涙を浮かべていた。 俐音やリュートが泣き真似だったのに比べ、こちらの方が手が込んでいて、数倍腹が立つ。 倖は意味が分かっていないらしく、ただニコニコと笑っているだけだ。 それに気付いた翔は溜め息を漏らした。 「……少し行った所にお城っぽい建物があったよ」 「マジですか!?」 元より場所を知っていたはずのフォーナが一番驚いたことに全員が驚いた。 真人やラスティなどは、もうお得意となった白けた目つきで睨んでいる。 「お前道案内するって言ってなかったか」 「そうなんですけどねぇ、何せ古い記憶を辿ってるもんで……」 「古いってどのくらい?」 「えー十万とよん……」 「嘘つけ!!」 フォーナが言い終える前に真人が切った。 そこまでで十分にネタが分かってしまったからだ。 そんな真人の肩をリュートが叩く。 「迷わずに済んだんだ、いいじゃないか細かい事は。さあ先を急ごう閣下」 「なんでアンタがこのネタ知ってんだよ、マジでただのコスプレ野郎だろ!」 「何の事だ?」 思い切りリュートの隊服を掴んだ。 仕立ての良さはただの売り物には見えないが、疑念は拭えない。 「閣下なら先輩にいる、名前は聡史って言って……」 「そりゃ同姓なだけだろ、何嬉しそうにしてんだ馬鹿が」 ちょっと言ってみただけなのに、と俐音はいじけた。 それも一瞬の事で、出発してしまった先行に追いつく為にすぐに気持ちを切り替えて歩き出す。 「それにしても魔法だなんだって違和感なく会話に出てくるのがすごい変な感じする」 「俺からしたら魔法の存在しない世界ってのが想像つかないけどな」 使いこなせるかは別として、ラスティは魔法などあって当然だと生きてきた。 だからこれに頼ることなくどうやって生活しているのか見当もつかない。 「さっきの炎はさ、何処から出てきたの?」 「何処って空気中」 「え?」 尋ねた倖だけでなく、俐音や真人も同じような表情で口を開いた。 「だから……空気中にある元素を手を媒介に一箇所に集めてから印を結んで、炎に変換して暴発させたってだけ」 「げ…あ、ああゲンソね、ゲンソを集めんのね? あれでしょ、八時になるとテレビの前に集まってくるあれでしょ、要するに」 「八時がどうした。全く解ってないだろ」 「倖を馬鹿にするな。インってなんだ、美味しいのか」 「リオンを馬鹿にしてやろうか」 どうやら本当に二人は基礎の基礎から理解していないらしい。 唯一ラスティと同じ側にいるリュートは、倖達の反応が面白いらしく敢えて正解を教えないでいる。 前 | 次 戻 |