10.女子と小人は養い難し


 昔、とある国にターリアという王女がいた。

 平和な国、優しい両親、そしてターリア自身の稀なる美貌。

 当然のように人々に愛され何不自由なく暮らしていた王女は、十五の歳で隣国の王子との婚姻が決定した。

 皆に祝福され幸せの絶頂にあったターリアだったが、彼女を妬む魔女に呪いを掛けられてしまった。

 決して城から出られないという呪い。
 これでは結婚して隣国に嫁ぐことが出来ない。
 手を尽くしたものの誰も解くこと叶わず、皆が嘆き悲しんだ。

 絶望のどん底に突き落とされたターリアを支えたのは将来夫となる王子だった。

「必ず呪いを解く方法を見つけて帰って来るから待っていて欲しい」

 そう言い残して王子はターリアの元を去り旅に出た。

 それからというもの、ターリアは来る日も来る日も王子が帰還するのを待ち侘び、待てど暮らせど帰ってこぬ王子にまた悲嘆する日々が続いた。

 疲れ果てたターリアは眠りに就いた。

 次に目覚めた時、私の前に王子がいますように、と願って

 やがて月日が経ち、ターリアの知る者が全てこの世を去り、国が滅び城が朽ちてもなお、彼女は目覚めぬまま……


「……て、みなさん嘘でもアタシの方向いて、真剣に聞いてるふりしましょ? 頭の中でどんだけ別の事考えててもいいですから」

 フォーナが語り始めた辺りから全員が寛ぎだし、終わる頃にはそれぞれ好き勝手な事をしていた。

 リュートは剣を磨いているし、ラスティは何処に隠し持っていたのか読書を始め、真人は木に凭れかかって完全に意識を飛ばしている。

 翔など「散歩に」と言って場を離れてしまっているのだからどうしようもない。

「ちょーあり得ないんですけどー、こんなクソ暑い日に外でやるとかー」
「マジウザいよねー。あ、てかこの間私さぁ……」
「女子二人に至っては、球技大会で早々に敗退したはいいけど、他の競技の応援する気もなくて木陰でどうでもいいお喋りに夢中になってる生徒の図そのまんまじゃないですか!! 手が暇で草毟りまくって、足元てんこ盛りの草山が出来上がってるじゃないですかーっ!!」

 体育座りをした俐音の足元に築きあげられた草山を指す。

 その横では胡坐を掻いた倖が、短いはずの髪があたかも長いかのように手櫛で梳かす仕草をしていて、フォーナの大声で起きた真人は学校であんなん見たことあるな、と密かに思っていた。

「ちょーうるさいんですけどー」
「マジウケるー」
「もういいですよ、その喋り方! 気に入っちゃってるんでしょ!? やめてください!」

 こっちは真剣に話しているというのに。

 連携が余計なところで取れ出しているのだと今にして気付いた。
 確実にここへ連れてくる人選ミスだろう。

「アタシは! ……助けてあげてほしいんです、王女様を。どんなに待ち続けたってもう……」

 未だ一人、とっくの昔に朽ちた城の中で眠りについている姫を。

 どんなに待ち焦がれても王子も、呪いを掛けた魔女でさえもうこの世にはいないというのに。

 真剣味を帯びたフォーナの声に、全員が動きを止め少女を見た。

「助けると言って、起こして差し上げればいいのか?」

 リュートはカチリと剣を鞘に戻す。

「ただ寝てるんじゃなくて魔法かそれも呪いで眠ってるわけだろ? 俺らが行ってどうなるわけでも……」

 魔法ならばまだラスティでも太刀打ち出来るが、呪いとなれば完全に管轄外だ。

 俐音達にはその違いはいまいち分らないが、その道に精通した彼には既に答えは出ている。
 フォーナもそうらしく、あっさりと頷いた。

「アタシが解除します。みなさんには王女様のところまで連れて行ってもらいたいのです」
「道知らないんだけど」

 むしろ誘導される側にいるのが俐音達のはずだ。
 だがフォーナは首を振った。そういう意味ではないと。

「さっき襲ってきた熊いたでしょう。城はあんな野生化した動物や魔物の棲家になってしまっているのです。だからみなさんの力を借りないとアタシ一人では王女様の所まで辿り着けない……」
「それを不思議生物が視えるだけのごくごく一般ピーポーに頼むか」
「俺にしたらそれだって十分イレギュラーだと思うがな」

 人並みはずれた運動神経を持っていても、それでも普通の域を出ない真人には俐音だって立派に非常識な部類の人間に位置づけられている。

 ここにいる他の面々が、あまりに際立っているから目立たないだけであって。
 人ならざる者を目で捉えるなど、多分この状況でなければ信じはしなかっただろう。




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