08.噂をすれば影がさす

 出会ってから随分と時間が経ってから自己紹介を済ませた六人は、誰もが自分の常識が通用しない者ばかりだという事実に行き当たった。

 だが今更そこを騒ぎ立てるにはあまりにいろいろな事が起こり過ぎていて、夢を見ているような心地になり「そんな事もあるだろう」とおざなりな感想しか抱けなくなっていた。

「唯一の共通点は、ここがどこだか分からないって事か」

 己の素性とここへ来る事になった経緯と、少しの身の上話を終えてぐるりと一周して戻ってきた疑問。

「あの女の子が言ってた、あっちの世界ってやつなんだろうけど……」
「じゃあ私達死んじゃったの!? バスから脱出したのに?」
「俺なんか歩いてただけだぞ」
「それを言うなら俺だって、偶然出会った熊が逃げろと言うからすたこらさっさと……」
「あり得ないだろその状況、お嬢さんにでもなったつもりか! リュートなんか熊と踊り狂ってれば良かったんだ!」

 馴染みのある歌と同じ状況に陥っていたらしいリュートに理不尽ながらも俐音は怒りを覚えた。

 彼は至って大真面目なのだろうが、ふざけているようにしか聞こえない。

 倖と翔は「すごいね、全世界で通じるんだね」なんて微笑ましい会話をしているが、真人とラスティは完全にリュートを馬鹿にした目で睨んでいる。

「とにかく、ここが何処かって事よりも先ずここから出られる方ほ……」
「あーみなさんこんな所にぃー」

 聞き覚えのある幼い女の子の声にバスで連れて来られた四人は俊敏に反応し、辺りを見渡した。

 するとすぐに少女の姿を捉えることが出来た。
 まるでジョギングでもしているかのような軽やかな足取りでこちらに走ってくる。
 が、その少女の後ろからもう一つ近づいてくる影が。

「助けてくださいー、さっきからずっと熊がとことこついてくるんですー」
「だからどんな状況ぉー!?」
「な、熊がいただろう?」
「んなこと言ってる場合か!」

 座り込んでリラックスしていた六人は素早く立ち上がると、少女がやってくる方向とは逆に走り出す。

「グルだろ、お前等実はグルだろ!!」

 駆けながらラスティがリュートに向かって怒鳴りつけた。
 タイミングの良すぎる熊の出現にそう思いたくなるのも当然だ。

「完全なる濡れ衣だ。というよりもむしろ俺は被害者だろう」

 文句ならあの熊に言ってくれ。などと余裕をかまして後ろを振り返る。

 熊は歌の通り友好的というわけではなく、唸り声を上げながら突進してきていた。

 それを確認したリュートが一番最後尾につけて、いつでも剣を振れるようにと気を配っているあたりはやはり素人ではない。

 だが悲しいかな、この場にいるメンバーはそんな集団行動をとる上での役割分担や効率などお構いなしな者達ばかり。

「思ったんだけど逃げる必要なくない? だって熊くらい倒せるよね」

 またしても一般的な思考からはかけ離れた提案を嬉々として掲げる倖。

 熊くらいって……と周囲が引いているのもお構いなしだ。

「まぁあの子を助けて恩を売っておくのもありかもしれんな」

 倖に賛同したのは予想外にもラスティで、二人は掛け声もなしに同時に方向転換した。

 倖は上体を屈めながら逆走し、ラスティはその場に立ったまま片手を翳しす。

 少女と入れ替わるように熊と対峙した倖は、地面を思い切り蹴り付けて土煙の壁を作った。

 熊が突進の勢いを弱めたのを見計らってラスティが「退け!」と叫ぶ。

 倖が後ろへ跳ぶと、突然熊の体が炎に包まれた。
 
 耳をつんざく断末魔が轟く。
 
 後ろを振り返ればラスティの周囲は青く光る円陣が浮かび上がっており、翳された彼の手が閉じられるのと同時にそれは姿を消した。

「す、すごい! 手品みたい!」
「いや魔法な」
「プロのマジシャンですか?」
「だから魔法だっつってんだろ、人の話を聞け」
「諏訪部さんが手品だって思い込んでるんだからもう手品でいいんじゃないかな。同じようなものでしょ?」
「根本から違うから。一から十まで同じ工程微塵もないから。つーか何なんだお前等」

 必死で訂正を試みるラスティに、俐音と真人は同情の目を向けるばかりで助け舟を出す事をしない。




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