まんばくんといっしょ


よく晴れた日の午後。
その子の姿は庭に面した縁側にあった。淡紅色の布地に可愛らしい花の模様が散りばめられた着物を纏った幼子は、陽のあたる明るい縁側の板の上で正座を崩したような形で座っている。
その手には、審神者である母が退屈しないようにと新調してくれたクレヨンが握られ、同じく買ってもらったばかりの自由画帳に色をつけていく。

大所帯になり常に賑やかな声が聞こえる本丸だが、今日は出陣や遠征に駆り出されている者に加え、審神者も舞台を引き連れ、復帰後初の演練に向かったばかり。内番が組まれた者たちもそれぞれの持ち場に分かれているため、本丸内はいつもより静かだ。

審神者から直々に娘の世話係を頼まれている山姥切が歩いてくると、ちょうど絵を描き終えて、次の頁を捲ろうとしていた。



「陽葵、燭台切がお八つを作ってくれた」

「きょうのおやつはなあに?」

「今日はみたらし団子だ」

「やったー!!まんばくん、はやくたべよー」

「こら待て、食べるな。手を洗ってからだ」

「はーい!」



彼女がこの本丸にやって来て5日。
人見知りでなかなか多くの刀剣たちとはまだ交流出来ていない。特に体格のいい大太刀や槍、薙刀などは自分よりも遥かに大きいため威圧感を覚えるのか、どうしても怖いようだ。しかし、山姥切含め一部の刀剣の名前は覚え、話も出来るようになった。

まずは堀川国広。
現時点では1番懐いている山姥切と同じ名前が付いていることと、高過ぎない身長から彼の名前はすぐに覚え、堀川の方もこれ幸いと何かと構うため、よく山姥切も交えて話している姿を見かける。
彼が仲良くしているお陰か、その相棒である和泉守兼定にもだんだん慣れてきたようだ。

次に燭台切光忠。
彼は初日に行われた宴で、既にこの幼子の胃袋をガッチリ掴んでいた。
デザートとして用意していたプリンを痛く気に入り、それを作ったのが燭台切であることを審神者が伝えると、
「みっちゃん、あいがとお!!」
と満面の笑みを見せた天使に、桜吹雪が舞ったのは周知の事実。
翌日から彼は毎日腕を振るい、彼女のためのお八つを作っている。遠征などで本丸を空ける時にも、前日の内に作って冷蔵庫に入れていく周到ぶりだ。本人曰く、断じて餌付けではない。
そんな彼のためにと、審神者もいつも当日の朝に発表していた出陣や内番の配置を、世話係に任命した山姥切と燭台切には前日に知らせるようになった。

そして、この本丸にやってきたその日から一緒に鬼事をして遊んでいた、粟田口派の短刀たち。
小柄な彼らにはあまり人見知りも発揮せず、よく一緒に遊んだりしている。
そんな姿を微笑ましく眺めているのは長兄、一期一振。
しかし、昨晩偶然廊下で鉢合わせた際に思いっきり人見知りを発揮されてしまい、「なぜ弟たちだけ…」と酷く落ち込んでいる姿が発見されたとか。

こうして少しずつではあるが、本丸にも馴染んできている。



山姥切に言われたとおり手を洗い、縁側に腰掛ける。すぐに彼もその横に座り、盆に乗った皿から団子をひとつフォークに刺して手渡した。
庵がたっぷりかかった一口サイズの団子を、大きく口を開けて頬張った。



「おだんごおいしー!」

「良かったな」



柔らかな眼差しで、幼子が美味しそうに食べる姿を見守っていると、視線に気が付いた彼女がそちらを向いた。



「まんばくんもたべたい?」



みたらし団子が食べたくて、自身を見ているのだと思ったらしい。



「いや、俺は…」

「はい!どーぞっ」



満面の笑みで団子の刺さったフォークを差し出す彼女に断るに断れなくなってしまい、躊躇しながらもその団子を頬張った。



「おいしー?」

「ああ、上手いな…」



甘い団子を噛み締めながらふと横を見ると、彼女が先程まで描いていた絵が置かれている。
白い画用紙には5つの大きな丸、その丸の中にはさらに小さな丸が2つずつ描かれていた。


「何を描いたんだ?」

「えーっとねえ、これがママでしょー」



真ん中の橙色の丸が審神者。



「これがパパでー、こっちがばぁば!」



水色と桃色の丸を順番に指差す。



「これじぃじ!」



緑色の丸を指差して言った
この"じぃじ"というのは勿論、天下五剣の自称じじいでも、驚き大好きびっくりじじいでも無い。審神者か"パパ"の父親、この子にとっては祖父に当たる人物のことだろう。

あの2人は爺心がそうさせるのか、やたらと幼子のことを構いたがる。だが"レア刀"と呼ばれる彼らは、運の強い審神者が力を発揮し割と初期の段階からこの本丸にいて練度が高い。そのため出陣に組み込まれることが多く、なかなか彼女と関われる時間がないのである。



「ひーちゃんじょーず?」

「ああ、よく描けている」



そう言って頭を撫でてやると、
「えへへー」と得意げに笑う。



「それなら、これは陽葵か?」



黄色のクレヨンで描かれた丸を指差して問えば、彼女は首を横に振った。





「まんばくんだよ!!」

「俺…?」

「うん!ひーちゃんはママもパパも、ばぁばもじぃじもだいすきなの!まんばくんもだいすきー!!」










―――――――――――――――









「陽葵ー!山姥切ー!帰ったぞー」



演練に出ていた審神者たちが帰ってきた。しかし、彼女の愛娘からも、一緒にいるであろう山姥切からも返事は無く、本丸も静かだ。



「あっ、主さんたちも今帰ってきたんですね」



そこに出陣していた堀川たちの部隊も帰還し、一同は廊下を進んでいった。
少し歩くと、燭台切が皆を出迎えた。



「おかえり。みんな勢揃いじゃないか」

「今戻った。陽葵たちは?」

「ああ、それなら…」



ほら。
そう言って燭台切が立っていた場所から退くと、縁側に白いモノ。



「これは…」



そこには、山姥切の白い布に包まれて眠る陽葵と、その横で穏やかな顔で眠る山姥切、そして2人を囲むように桜の花びらが落ちていた。










「…もう少し寝かせてやるか」

「そうですね」

「堀川、夕餉の支度が出来る頃に2人を起こしてやってくれ」

「はい!」

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