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「で、なぜ俺がこんな陰険ないじめを受けなければならない。」 (……すまん。) 次の日、体の節々の痛みで熟睡できなかった友哉が目を擦りながら、やっとの思いでたどり着いた学校の靴箱。そこで友哉は半分寝ていた頭が、憎悪によって完璧に覚醒された。友哉、もとい謙也の靴箱からゴミが溢れ出ていたのだ。紙ゴミ、生ゴミ、きっとセオリーに何かの死骸が入っているのだろう。異臭が立ち込めていた。 (これ、毎日あるんや。ここの掃除から俺の一日は始まっとった。) 「おいおいおい、勘弁してくれ。俺は物理的ないじめは痛いだけだから平気だけど、こんな陰険なのは大ッッ嫌いだぞ。虫唾が走る。」 (なんや?やっぱ辛いか?) 「いや、俺が嫌われてる訳じゃねぇから別にどうってことねーけど…こんな卑怯な真似してる輩が判明したら俺はとりあえず一発殴る。それくらいこういうのは嫌いだ。大嫌いだ。言いたいことがあるなら直接来いってんだ。このチキン野郎共め。」 (…そうか。俺も友哉みたいな図太さが欲しかったわ。) 友哉は掃除なんてしてられるか、と靴箱をそのままにしてクラスに向かう。そして謙也の机には靴箱と同様、沢山の生ごみが散乱し、そこには靴箱にはなかった落書きもオプションとして追加されていた。 「……マジかよ。」 友哉の呟きはクラスのざわめきによってかき消された。理由としては昨日まで黒髪だった奴が突然、髪を脱色して登校だったからである。真面目で、現在根暗で、そんな奴が髪を脱色したら誰だって驚く。 (めっちゃ視線が痛いんだが?) (当たり前やろ、髪が金髪になっとるんやから、俺のおかんかてびびっとったやろ。) (あぁ、そういう類の視線ね。絶句とは、まさにこの事。お前のかーちゃんすげぇよな。驚いたかと思ったら次の瞬間は爆笑し始めて、怒られるかと思ったんだけどな。) (…せやな。そこがオカンのええところや。…多分。) 友哉はこんな席で授業を受けるぐらいならサボってやろうと思い、廊下へ引き返そうとした。しかしチャイムが鳴り、入ってきた教師に呼び止められる。 「忍足、か?その髪…まぁいい……どこに行く、授業が始まるぞ。」 「は?」 友哉はなんてことを言いだすんだと驚く。こんな悲惨な机になっているというのに、それが当たり前だろうという態度を取っている教師。 (こんな机で授業を受けろってか?つか教師だったらこのいじめを止めなきゃいけねーだろ!?) (無駄や。白石が教師を仲間にしとる…あること無いこと言ってな。俺は教師からも迫害を受けとるんや。) (…この学校も腐ってやがる。) 友哉はこんな、汚れた机に座りたくないかったので、教室を見渡し、その辺の欠席者の席に座ることにした。 「お前、そこの席ちゃうやろ。その席は自分が傷付けたマネージャーの席や。謙也が座って良いとこやないで。」 友哉は空いている席を見つけ、そこに座ろうとしたら白石が声をかけてきた。 「あ?お前このクラスだったのか、ふーん。」 白石の問いを疎かに友哉は机で寝る準備を始め机に伏せる状態になる。 「謙也、調子にのるのもいい加減にしぃや?お前のせいでマネージャーは学校来んようになったっちゅーのに…自分まだ殴られ足りんの、か!」 白石は友哉の態度が気に入らず、拳を友哉の顔めがけてを繰り出してきた。しかし友哉はその拳を顔で受け止める気はさらさら無く、片手で簡単に受け止め、そのまま白石の拳を握りしめる。 「おっと。人が寝ようとしたところを殴ってくるなんて危ねぇじゃねぇか。お前がな。それに別にここお前の席じゃないならいいだろう。ここの席の生徒は来てねぇみたいだし、来たら退ければいい話だろ。それともなにか、喧嘩か?受けて立つぜ?俺は強いぜ?白石クン?」 友哉は白石の拳を握っている手に力を入れ万力の方に締め上げる。白石は締め上げられる痛みに耐えかね、悲痛な声をあげた。 「やめ、離し!」 (友哉ー、これ朝の挨拶のようなもんやで、離してやり。これ以上、目立たんといて。) 「え?これから喧嘩が始まるんじゃねーの?なんだよぬか喜びさせんなよ。覚醒した俺がバカみたいじゃねーか。いいか、殴り合いの喧嘩をする気無いんなら…俺に拳を向けてくんなよ?間違って再起不能にしちまうかも知んねぇからな。冗談で言ってんじゃねぇからな?冗談だと思うならかかってこいよ。手加減なんてしてやんねぇから。…勿論、白石に限った話じゃねーぜ。お前らもだ。クラスメイト諸君。さて、白石。これ以上やるってんなら、覚悟は良いか?俺はできてる。」 とても低い声で言い放ち、微量の殺気を流す。教室の中が初めて謙也に恐怖した。白石の手を解放する。白石は一瞬友哉の低い声に恐怖し、たじろぎはしたもののすぐに平常に戻って自分の席に戻って行った。 (アハハハハ、ザマァ。) (喧嘩売って平気なんか?) (超余裕。喧嘩仕掛けてくるんなら、さっさと仕掛けて来い…な意気込み。言ってんだろう。俺は、強い。強いんだ。) 友哉は静かに寝むりに入った。授業が始まり、少しして頭にコツンとした衝撃が走る。その衝撃で顔を上げてみると教師に頭を教科書で叩かれたようだ。机のすぐ横に教科書を丸めて持っている教師が居た。 「俺の授業で堂々と寝るたぁええ度胸やないか。」 (……はぁ?) 「忍足、授業で居眠りするぐらいならこの問題もスラスラ解けるやろ。解いてみぃ。」 友哉に黒板まで出てこいと促す。問題を凝視する友哉しかし解くことができない。 元々頭のよろしくない友哉ではあったが、この問題はある確信が持てた。 (…ぁあ?こんなの中学レベルじゃねーだろ!) こんな問題。中学でやるようなものではなかった。それだけは分かった。それが分かっても意味は持たないが、この事により、謙也は学校ぐるみで虐められているという事がより色濃く確信が持てた。 (当たり前やん、あの先公わざと難しい問題を俺に解かせて恥かかそうとしとるんや。) (チッ。) 「なんや忍足ぃ、解けんのか?」 にやにやとした顔で友哉の顔を覗き込む。 (ムカつくなこいつ。オラオラしてやろうか。) (友哉、x=2a/9bや) (…あ?なんだいきなり。) (やから答えや。) 友哉は謙也に言われたように数字を黒板に書いた。 「チッ正解だ。席に戻れ。」 教師は悔しそうに舌打ちをし、戻るよう指示。友哉は席に戻って行く。 (やるじゃん謙也。) (先公を見返すためにはこれしか方法がなかったんや。効果はなかったけど…。) (謙也…努力してたんだな。努力の方向を間違えてると思ったことは口に出さないでおこう。) (思っとるだけで伝わる俺にはその気遣いは無意味や。) (あ。) |
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