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「……俺、死んだかと思った。」 友哉が目を覚ました。覚まして辺りを見回してみると昔一回見たことがあるところ。謙也の家に併設している診療所だ。 「あ、…目ぇ覚めたんやな?」 話しかけてきたのは女性で、謙也のお母さんだ。 「えぇ…はい。」 「今、あの子学校やねん。もうすぐ帰ってくると思うんやけど…。あの子ね最近部活もせんと自分の世話ばっかしよるんよ。」 時計を見れば午後4時。 「……スミマセン…俺、何日寝てましたか?」 「今日で4日目や。」 「4日ァ!?」 「せやで、元々自分、栄養とってなかったんやないの?なかなか治らへんよ。栄養が少なかったら。あと睡眠不足?たかが刺し傷で4日、目ぇ覚めんとか治療失敗したかと思ったわ。目ぇ覚めてよかったやん。」 「あー…っす。」 「友哉!」 「うお!?」 謙也が勢いよく帰ってきた。 「こら謙也、帰ってきたらただいまやろ。」 「すまんオカン…友哉…目ぇ覚めたんやな。」 「ああ、さっきな…でも俺、交換転校生の期間終わっちまったよ。」 「あ…そういえば俺の学校のやつも帰って来とったな。」 「仕方ねぇ、俺これから学校行って先公に一言言ってすぐ関東に帰るわ。」 「光にはなんも言わずにか?」 「うーん…だってなぁ…カッコ悪ぃとこ見せちまったし…白石に礼を言わなきゃなんねぇ立場だし……もう一回会うのってなんか癪…。」 「友哉らしいわ。」 「なんだ?止めないのか?」 「友哉は止めても聞かんやろ。けど…学校行くんは明日にしとき。」 「は?」 「今行っても先生らもう帰り始めとるし、担当の先生居らんかもしれんやろ?」 「あー…そうか。よし、だったら明日誰にも会わないように遅刻していくわ。」 「どこまでも俺様な性格やなぁ。」 そんなことで友哉は一般の生徒が授業中の時に職員室へと出向いた。言われたことはした、と伝えて関東へ帰ると言う旨を話す。今回の友哉のしでかしたことは警察からも連絡は来て無いようだから、他言無用とのこと。 何処までも名誉を重んじる学校だこと。 「なんだかんだ言って…楽しかったなぁ……夢みたいだった。」 これで関東に戻ったらまた一人になるんだが、元々の生活に戻るだけ。 そう、変わりはない。ここでの生活が夢だったというだけだ。 ポテポテと歩いて、もうすぐ校門。 「夢や…ないですよ。」 「!?」 聞こえるはずのない声が聞こえた。 「……財前。何で居るのかなぁ?」 「今日帰るんですよね。関東に、」 「………そうだけど…授業さぼったらダメだろう。」 「今更っすわ、それに…友哉さんもでしょう?」 「…確かに。」 「友哉さん、夢で終わらせませんよ。」 「夢だよ。俺がここに居たって言う証明は時間と一緒に薄れていくし、俺自身忘れて行くもんだよ。記憶って言うのはそういうもんだろ?夢っていう言葉が一番しっくりくる。」 「やったら…忘れられない証拠を作ってしまえばええんですやろ?」 財前が一歩前に出た。 「ん?」 「ピアス、開けましょ?」 「へ?」 「夢やったら痛みを感じへんですやろ?ピアッサーで痛みを感じてください。記憶が薄れるんなら、体に覚えてもらいましょうよ。それに…なにより俺とお揃いっすわ。」 ピアッサーを構えてじりじりと近寄る財前。ニィッと浮かべた笑顔が限りなく怖い。 「チョっえ、マジかよ!?俺ピアスとかは病院で開けてもらう派…。」 「却下です。」 「タンマタンマタンマァ!テメェらの後輩だろ!?見てねーで止めろよゴラァ!」 財前の後ろに実はテニス部が勢ぞろいしていた。先生が出てこなかったところを見るときっと白石辺りが言いくるめたのだろう。 「いやー…やっぱりと言うか財前の愛はエクスタシー重いなぁ…。」 「意味分かんねぇよ。……謙也ぁ…テメェ、喋ったな?」 友哉が今日帰るとう情報は謙也にしか伝えていなかった。 「堪忍!やって…光がめっちゃ怖かったんやもん!」 「このヘタレがぁあああ!ってぇええ!?」 バツンと言う大きな音が耳元でして耳に痛みが走った。 「はい、開きました。」 「おまっ……膿んだらどうしてくれんだ…これから夏だぞ?」 「そん時は俺が介抱しに関東まで押し掛けますわ。」 「……そっか…財前、コレ、やるわ。」 そう言って友哉は自分の片耳に手を持って行ってその手を財前に突き出す。 「…?なんすか?」 財前も片手を器の様に出して待機。友哉はその手の上に自分がさっきまでつけていたピアスを乗せた。 「大したもんじゃねーけどよ。俺がここに居たって言う証拠。財前、持っといてくれよ。」 失くすんじゃねーぞ、と。 「失くす訳ないやないですか…ッ!」 「それはよかった。」 |
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