俺と僕とそれから | ナノ


02


友哉は自分の体に何が起こっているのか確認するために一目散に鏡が存在するトイレまで走って行った。トイレに行くのも、迷子になりそうになった。この校舎は自身が慣れ親しんだ後者ではないことを明らかにされた。
そして、トイレに辿り付き、鏡を覗き見ると驚くべきことが起きていた。友哉の顔が変わっているのだ。

「え?ええ?なんで何この黒い髪。俺ブリーチしてたよな?は?意味分かんない。つか顔変ってるー!?ありのまま今起こったことを話すぜ!外見変わってる!…意味わかんない!」

友哉は髪の毛を脱色し、色素が薄くなったところに様々な箇所に様々な色のメッシュを入れて、黒髪という地味な外見はしていない。

(おい。)

「ちょっと待って…えー、なにこれ夢?いやさっき白石とかいう奴に殴られたときは痛かった。から夢じゃない。」

(おい!)

「いやいや、クールになれ俺。一つ一つ整理していこう。屋上で昼寝をしていた。そして、気がついたらなんか色々変わってる。うん。意味わかんない。そうだ。逆に考えるんだ。変わっちゃっててもいいさと、考えるんだ。…ダメだろう!?」

(なぁ!おい!)

「うっせー!こちとら大変な!今…ってあれ?どっかから声聞こえてんの?」

友哉は大声を叫ばれたと思ったが、周りを見回してもトイレしかない。叫んでいたであろうと思われる人の姿なんて確認できなかった。

(落ち着けっちゅー話や!つーかその体俺の!服脱がんといて!)

「は?俺の!?意味分んねぇし。つか声が頭の中から聞こえるんですけど!」

(落着きや!いいかお前は俺に呼び出されたんや。)

頭に直接響いてくるような声が自分の体だと言う。そして自分が友哉を自分の体に宿らせたと言うニュアンスの言葉を吐いた。どうやらこの声はこのような摩訶不思議な出来事の顛末を知っている様子だった。友哉はその声に対して先程よりも落ち着いた態度で会話をした。

「あ?呼び出し?お前誰。この体お前のなの?」

(そうや、俺の名前は忍足謙也や。よろしゅう。自分は?)

「…守本友哉……よろしく。」

(今お前は俺の体の中に精神だけ入って俺の体を操つっとるっちゅー話や。で、俺をこの現状から助けれたら帰れるって神様が言っとったで。)

「………何でだ!何で俺が人助けをしないとダメなんだ!俺は学校の屋上で昼寝してただけだぞ!」

入れ替わるだとか、神様だとか、そう言った聞きなれない、ツッコミを入れたくなる単語が聞こえてきたが、現状起きていることはそういった類の力がないとこんなことにはならないのだろう。と友哉は安易に考え、それ以上深く考えることをやめた。

(友哉不良やろ。天罰が落ちたんや。)

「んだとこら、殴らせろ。」

(殴れるもんなら殴ってみぃや。痛むんは自分だけやでぇ。)

「ッチ、……で?お前はなんでこんな状況になってんだ?」

(助けてくれるんか?おーきに!)

「誰もそんなこと言ってねぇだろ!話を聞くだけだ!」

(……俺は見ての通りいじめられとる。始まりはあのマネージャーからや…マネージャーがいきなり生活に刺激がほしいとか言って俺が学校全体にいじめられるように仕向けてきたんや。)

謙也がこのようなことになってしまった自分の体験を完結に友哉に伝えた。その体験談を友哉は聞いて、眉間に深いシワを刻んだ。

「…お前、も…抵抗しなかったのか?しないもんなのか?相談とか。」

(出来るはず無いやん。学校を牛耳っとる白石を敵に回したんたで?抵抗するだけ無駄や。相談も以ての外や。誰から白石の耳に入るか分からん。先生やって、白石の味方やもん。)

「…うぜぇな。お前のその発想。嫌なら抗えよ。諦めたらそこで色んなもんが終わるだろう。」

(無理や…俺足が速いことしか能が無いんやもん。)

「テメッ……ん?…おい、俺がお前を助けなかったら…俺はもしかして、ずっとお前の姿っつーこと…か?」

謙也の言葉にイライラを募らせ、爆発してしまうのではないかと思ったが、それより先に友哉の脳内には悪い予感が占められた。

(せや、この現状から友哉が抜け出すには俺を助けるしかないんや。助けんかったらお前は俺のかわりにリンチを受けることになるな。)

「っざせんな!クソが!俺を巻き込むな!一人で勝手にリンチにあっとけよ!面と向かって話したこともないやつをなんで俺が助けねぇといけねぇんだよ!ふざけんなカスが!」

(俺かって!俺かて…辛いんや…仲間に殴られるんも、蹴られるんも、罵られるんも、もう限界なんや。自分のことに巻き込もうとか思うて無かったわ。ただ助けてほしいって神様に願いしただけなんや。こんな事になるなんて、思ってなかったんや…。)

「………おいお前、参考までに聞きたい。もし白石とかがお前に謝ってきたらどうするんだ?許すのか?」

(許せんかもしれん。…けど、もう一度みんなとテニスをしたいんや。)

「そうか、許すのか……しょうがねぇ。俺も元居た世界に帰りてぇし、助けてやるよ。お前の態度にもイライラするが、他の奴らの行動の方が俺をイラつかせるからな。」

(ホンマか!?おおきに!)

「よし、手始めに髪をブリーチすっぞ!んでメッシュ入れる。」

友哉は気合を入れ直し、トイレの鏡の前からトイレの外へと移動した。そして、歩きながら謙也に対して宣言した。

(は?なんで!?)

「白石っつー奴を倒せばいいんだろ?そいつはこの学校を牛耳ってんだろ?だったら俺はこの市内の学校を牛耳ってやるよ。その為にナメられないようにするんだよ。それに脱色メッシュは俺のアイデンティティだしな。このままじゃ俺のアイデンティティ消失だぜ。」

(え、待ち。今俺の体やけん、アイデンティティの消失は当たり前やん!)

「安心しろ。俺元の世界じゃ負けなしだったから。さっさと学校を回って行こうぜー。で俺はさっさと元居た世界へ帰る。」

(待ってー!ブリーチすんのは許すけど、いや許したないけど、メッシュはあかん!さすがにあかん!おかんが卒倒してまう!)

忍足謙也の姿をした友哉は颯爽と校舎を後にした。

「アッハッハッハ!止めれるもんなら止めて見やがれ。」

(無理ぃい!)

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