俺と僕とそれから | ナノ


12


「俺には俺とは正反対で真面目な幼馴染、森下朋樹が居たんだ。」

そう言った言葉で始まった友哉の昔話。何処か神妙に、何かを懐かしむように、そして何かを悔やむように友哉は話を続ける。

「朋樹は俺が保育園とか通ってる時に俺の家の目の前に引っ越してきた。同い年って言うのや、俺と朋樹の母親がバリバリのキャリアウーマンってことも相まって家族ぐるみで仲良くしてた。一緒に旅行に行ったり、そこでお揃いのキーホルダーを買ったり。仕事が忙しい時は互いの家を行き来したりし、ただの友達よりは仲良くしてた。けど…俺がこんな風に育っちまって、朋樹はくそ真面目な奴になっちまって…中学を上がる時は家族ぐるみでの関わりは無くなった。朋樹の家に預けられるほど俺の生活力は低くねぇし。それ以上に俺の素行は朋樹の母親には嫌われてたからな。風当たりも強くて必要以上に関わろうって気もなくなっていた。俺はその時はどうでもよかった。クソ真面目な朋樹より仲間と駄弁る方が数倍楽しかったから。それで…俺が知らない間に朋樹は虐められていた。主犯は俺の仲間兼舎弟。俺が朋樹が虐めにあってる知ったのは、中学2年の9月1日。始業式の日だった。朋樹が虐められ始めたとき?小学校の頃からさ。
アハハハッ面白れぇだろ。俺は止めようとしなかったんだぜ?止めることが出来なかった!俺はあいつが虐められてるなんて知らなかったんだッ!ああ、一個訂正しよう。交流がなくなっても挨拶ぐらいはしてたさ。ご近所付き合いは大切だし、無視するほど朋樹を嫌ってるわけでもなかった。交流が薄れてもあれだけ仲良くしていてたんだ。友達と思って俺は話しかけていた。挨拶をする度、会話をする度、あいつは毎回、同じ態度だった。虐められていてもいつもと変わらない態度で接してきた。……よく見れば悲しい雰囲気とかしてたかもしれねぇが…俺バカだし、他人の感情を読み取るなんてできなくて…そんなの気づかなくてよ。朋樹が虐められてるって聞いて俺はあいつに問いただした。どうして俺に言わなかったって。結構な勢いで糾弾した。けど、朋樹はなんて言ったと思う?俺には関係ないって言ったんだ。俺はムカついて勝手にしろよって意味分かんなくて、悔しくて朋樹を突き放した。本当はしちゃいけなかったんだ。朋樹のただの強がりだったんだ。それから間もなくだ。あいつは自殺未遂をした。まだ入院してるらしい。入院してる病院は知らねぇ。あいつの親が何も言わずに転院させた。俺に二度と近づくなって言い残してな。それでだ。朋樹は本当、無駄に真面目な奴で…遺書まできっちり残してあったんだぜ?しかも3通も、学校用に家族・親族用、そして俺用だ。」

友哉は何かを探すように手をポケットに入れた。探してもその目的のものは見つからず疑問に思ったが、よく考えれば今の体は謙也のものであるため、朋樹からの遺書があるはずもなかった。友哉は一人気恥ずかしくなった。

「あ、これ謙也のだったな。俺、朋樹の遺書をいつも持ち歩いてんだぜ?お揃いで買ったキーホルダーも一緒にな。女々しいだろ?女々しいどころか重いか。うわ、俺おっもぉお!」

自虐的に笑う友哉を見た財前は苦しくなった。

「で、ここからだ。俺が謙也に肩入れする理由は、難しい話じゃねぇ。単純な話だ。一言で終わる。でも、気分がいいから語らせてくれ。
…学校用にはこう書いてあった。『僕が死んだのはあなたたちのせいです。僕は相談しました、虐められていると。ですがあなたたちは勘違いではないのか、仲良くしなきゃダメだろうって言って相手にしてくれませんでした。僕が死んでこの遺書が見つかった時には後悔してください。僕の部屋に虐めてきた生徒の写真と僕の怪我の診断書。先生との会話。虐めの証拠になるものは全て揃っています。虐めの事実は把握していなかったとは言わせません。』って何処までも真面目な奴だよ。それに執念深い。恐れ入ったぜ俺の幼馴染。で家族には…知らねぇんだよな。あるって事実だけで。母親がこの俺に教えてくれるわけなかった。
それで、俺だ。
『友哉、初めて手紙を書きます。初めて書く手紙がこんなのでごめんね?学校にも、両親にも言わなかったこと…友哉だから話すよ。
辛かった。辛かったんだ、でも僕ね。虐められるのはこれが初めてじゃなかったんだ。実は小学校の頃にもあった。友哉にはバレてないと思う。バレてたら今の僕は恥ずかしいな。バレてない前提で話させてもらうよ。小学校の虐めの原因は友哉に引っ付いてたからなんだ。どこに行くのも、何をするのも一緒の僕が他のクラスメイトは気に食わなかったらしい。友哉はカッコよくて誰からの憧れの存在だった。そして僕は根暗で君とは雲泥の差があった。だから虐められた。嫉妬だったんだ。その時、小学校の頃に虐められていた原因は。だから僕は少しずつ、少しずつ君から距離をとった。君は僕が居なくても大丈夫な人だったからね。僕の計画はスムーズにいったよ。また平穏が僕に訪れた。友哉と気軽に話すことが出来なくなるっていうことが少し寂しかったけどね。
それで、今回虐められた原因は…分からない。考えてみたけど…分からなかった。きっと暇つぶしだったんだろうね。虐める対象がたまたま僕だったんだろうね。誰でも良かったんだと思う。虐めの主犯が友哉の友達ってことは想像がついた。人を虐めるなんてことをするのは大抵、そういった人種だからね。いくら君が統括していても、防ぎきれないものはあるよ。そして君は責任感からか僕に迫ってきたよね。僕…嬉しかったんだよ?長い間一緒に遊ぶとかしていなかった間柄の僕を君は気にかけてくれた。本当に嬉しかった。けど僕は君を突っぱねてた。理由を言うね。僕は、僕が原因で君が人を殴るとこを見たくなかった。僕のせいで人が傷つくのを見たくなかった。君は考えるより先に手が出るからね。安易に想像がついたよ。僕は君の手を借りなくても過去の様にまたこの現状は回復すると思ってた。けど、さすが中学生だね。なかなか終わらなかった。僕にも友達って言える同級生は居たんだけど、僕が虐められ始めてだんだんと距離を置くようになったんだ。仕方ないよね。虐めに巻き込まれたくなんてないよね。だから僕は仲間が僕を無視しようと、耐えることが出来た。いつかまた一緒に過ごせるようになるって信じて。
でも、耐えられなくなっちゃった。友達が僕の大切な、君とお揃いで買ったキーホルダーを目の前で踏んで壊してくれた。僕は頭の中が真っ白になった。何が起こったのか分からなかった。けど目の前には壊れたキーホルダーがある。茫然としている僕に僕の仲間はこう言った「お前なんて仲間なんかじゃない、さっさと死ね。」って。僕はもう何も考えたくなくなったから…この時初めて死にたくなったから、僕は死ぬことにしました。
最期に僕は友哉と過ごせた時間が大好きだった。僕のこと忘れないでね。でも…欲を言うなら、あの時助けて欲しかった。』
ってよ。だから俺は謙也に肩入れをした。全く同じ境遇だろ?朋樹と謙也。理由もなく虐められてる事や、真面目でお人好しで、優しくて、…可笑しい話だろ?関東の学校を牛耳ってる俺が、何千人って支配下における力がありながら俺はたった一人のダチも救えないんだぜ?俺は、結局バカのバカで大バカ野郎だったんだよ。でももう後悔したくねぇ。だから俺は同じような境遇にいて、あいつと同じような考えを持ってる謙也を助けたいと思ってこんなことでも納得して助けようとしてきた。でもさ、また俺は誰も助けることはできないんだわ…謙也は何も反応してこなくなっちまったし……なぁ財前クン?仲間から受ける暴力って死ぬことよりも辛いらしいぜ?事実俺は、胸が抉られる様な張り裂けそうな感覚を体験させられた。………ん?…財前大丈夫か?」

財前は友哉の話を聞くうちに目にはたくさんの涙を溜めていた。下唇を噛んで歯を食いしばって涙が溢れ出ないようにしている。

「平気…す。」

「アハハ…悪ぃこんな重い話聞きたくなかったな。でも納得くしてくれただろ?俺が謙也の意思を尊重してる理由。簡単な話、あの時助けられなかった朋樹の代わりに助けたいんだ。結局は自己満足。俺のエゴだ。」

「はい…。」

「これで話は終わりだ。財前はクラスに戻れよ。俺はもうひと寝入りすっから。」

「はい……ッ!?友哉さん。校門のとこ!」

「あ?」

財前が指差す方向を見ると20人程度の少年が四天宝寺中学に向かってガンを飛ばしてきた。いや友哉に向かって飛ばしている。

「あいつら朝っぱらから来たのかぁ?」

「……友哉さん…もう放課後や。」

「え………マジ?」

友哉は十分に寝過ぎていた。

「ホンマっすわ。」

「…まぁいいさ!さてあいつ等を再起不能にしてくるわ。財前はここに居ろよ。」

「着いて行く…。」

「いーや、来るな。俺の舎弟なら余計に来るな。巻き込むぞ。ここからは俺の、俺のための時間だ。」

友哉の顔から笑みも苦笑いも消え、あるのは得物を捕えた肉食獣の様なぎらぎらとした目。人を獲物でしかないと捉えている冷たい目。

「…友哉さんっ。」

怖い、そう思った。

「なぁ財前。やっぱ謙也が居なくなってよかったよ。俺の目に映る風景は優しすぎるアイツには刺激が強すぎる。」

友哉は財前を屋上に残し校門まで歩いて行った。

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