俺と僕とそれから | ナノ


09


「誰が自分なんぞと仲間になるか。過去の自分を責めてやりたいわ。一時、一瞬だけでも謙也の仲間になったっちゅー事実を消したいわ。嗚呼、人生の汚点を15歳の若気の至りで作ってまうなんて災厄や。」

「おま…。」

「ええか?最近自分の頭おかしゅうなっとるから、はっきり言ったる。忍足、お前なんて仲間やない。クラスメイトでもない。テニス部、四天宝寺…いや……すべての、敵や。絶対なる悪や。」

(白石っっ。そんな!)

謙也の揺らめく声が聞こえる。こんな言葉を吐かれて平気なわけがない。けれど、友哉は泣くな、耐えろと念じる。こんなところで泣いたら、もっと馬鹿にされるだけだ。いたぶる方の心理ならよく分かる友哉はそれだけを伝える。

(謙也、泣くな。辛いだろうが泣いたらもっとひどい言葉を浴びせられる。)

「せや、お前のラケット。もう要らんやん?俺らで処分してやっといたわ、感謝しや。」

「俺らもこんなんやりたくなかったと、ばってん仕方なか。」

「こんなんがあるから自分ここに来とったんやろ。やから、もうここに来んでもええからな。次来たら、死なすど。」

友哉が部室の隅に目をやるとガットが無残にも切られ、歪に歪んでいるラケットが転がってあった。

「謙也の、大切なものが…朋樹っ…あ、ぁああ…。」

(嘘やっ嘘や…嘘やぁああぁぁああああああ!!友哉っ俺、もういやや!俺だけなんか!?俺だけしか仲間やと思っとらんのんか!?いややいややいやや!もうこんな辛い思いしとうない!俺もう…死にたいっっ!!)

謙也の精神が大きくぶれた。友哉は激しい頭痛を感じ、冷や汗が全身を伝った。謙也の強い存在を一気に感じたことが原因かも知れない。ひとつの体に二つの精神が宿っている異常な自体を今まで体が悲鳴を上げなかったことがおかしかったのかもしれない。
そして今、肉体の苦痛を憑依した瞬間から請け負っていた友哉であったが、この瞬間から心の痛みを強く感じるようになった。今まで精神だけ正常に残っていた謙也がこの心の痛みをまだ感じていたのだろう。しかし今はどうだ?友哉が本来謙也に向かう痛みを全て請け負ってしまっている。

(謙也、待て!…え、謙也、謙也…?おいってば、待てよ。まさか、嘘だろ謙也!)

友哉が全てを請け負ってしまっているなら、謙也はどこに行ったというのか。どこにもいけないはずだ。ならば、消えたということなのか。友哉は何度も謙也の名前を呼ぶが、反応はない。その上、いつも感じている謙也の気配がしなくなり、喪失感でいっぱいになった。

「あ、ああ、痛ぇ…痛ぇ、締め付けられるようで、クソ痛ぇ。あいつは、こんな事で、謙也も、同じ道を選んだのか。そうか、そっか…。」

「はぁ?なんや、本格的に狂ったか。さっさと入院して一生出てくんな。」

「…お前ら、最低だな。」

「ハァ!?最低のお前に最低なんか言われたくないわ!」

「お前らが…消えてしまえばよかったんだ。この屑共、ゴミ共、雑魚共。」

謙也が完全に居なくなってしまった為か、友哉の凍てつくような殺気と、冷たい言葉が白石達に降り注ぐ。

「は?」

「お前らが謙也を嫌ってるのは知ってる。嫌いなものを嫌いと言うことはしょうがねぇ。それは分かる。けどな、謙也はな!仲間のお前らとまたテニスしたいって、誤解を解きたいって、俺がお前らを殴らないようにって、俺のストッパーになってくれてたんだぜ?こんな優しいやつになんてことを言ってんだよ!謙也はこんな思いをしないといけないようなやつだったのかよ!」

「は?言うてんの、謙也は、ってお前が謙也やろ。白石、救急車呼ぼうや。気持ち悪いわ。」

「…おい、一氏とか言ったな。謙也は今までにお前らが言ってきた行為を一回でも肯定したことあったか?」

「無いで、ホンマ嘘つきは嫌やわ。」

「お前ら、絶対後悔させてやる。謝罪文でも考えとけ。それが無理ならお前らが死んで詫びろ。」

「ハッ、お前がマネに謝罪しろや。」

友哉は言いたいことを言って部室から去ろうとした。

「ちょい待ち謙也、人殺しってなんやねん。」

しかし、白石が友哉の腕を掴み、去ることに邪魔をする。

「チッ離せよ。」

友哉はそんな質問をしてきた白石を睨みつけ白石の腕を乱暴に振りほどき部室を去る。友哉が部室を去り部室の中は謙也に対しての悪口の嵐となった。口々に言う悪口が飛び交う。そんな中、ずっと黙っている少年が一人いた。あの時、助けられた財前光だった。


あの雰囲気、謙也さんが…友哉さん?そんなこと、でもあのシルエットに、声に、髪の色も…よう分らんかったけど友哉さんも髪の色抜いとった様な…共通点がありすぎる。また友哉さんと会えんかな…そしたら確かめられる。

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