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ずっと、ずっと待ってるからっ――――! 神聖ローマの最愛の国が言った最後の台詞。神聖ローマはその言葉を度々思い返す。戦い挑む時、必ず思い返す。その言葉だけで気持ちが高められるから、その約束を破るわけにはいかないと、己の持つ力全てを発揮できるように感じるから。 ずっと待ってるから……か。イタリアと別れて何年経ったんだろう。あいつ、元気でやってるかな。あいつは泣き虫だからな、俺が守ってやらないと。早く会いに行きたいな。立派な国になって迎えに行くんで。それで俺は――。 「―――マ、神聖ローマ!」 神聖ローマがイタリアとの思い出を思い出している時、仲の良い一人の兵士が声をかけてきた。 「あ…あぁ、悪い。何だ?」 取り繕うように神聖ローマは答える。 「何だ?…じゃ無いよ!ったく、これが最後の戦いだからって油断してんじゃねぇよ。」 「ゆっ油断してなんかないっ!!ただ…考え事してただけだ。」 「考え事、ねぇ……またあの召し使いの子の事だろ。」 ニヤニヤとした笑いで言ってくる。図星を突かれた神聖ローマは思わず顔を真っ赤にした。とても微笑ましい。しかし、ここは戦場、一瞬の油断が命取りになる場所。神聖ローマは気持ちを入れ替えて 「〜〜っ違うっ!さっさとこの戦いに勝って帰るぞ!」 「帰るって神聖ローマは何処に帰るの?」 「…………っイタリアの何処に、だ!」 そうだ、ついに大国のフランスとの戦いなんだ。これに勝てばローマ帝国の様な国になれるんだ。それからイタリアを迎えに行って一緒に暮らすんだ。 「神聖ローマ!!フランスが攻めてきたぞ!」 「あぁ分かってる!……全軍、フランス軍を迎え撃てぇ!!」 戦いが始まりその後は血で血を洗うような激戦となった。 戦場は血、硝煙、戦場特有の匂いで溢れていった。断末魔、悲鳴、所々で笑い声もあがっている。 あぁ、この戦いを楽しんでいる者も居るのか。俺達はいつから戦いを楽しむようになったのか。俺はローマ帝国に憧れているが、なりたいと思っているが、数多の犠牲者を出してまで得るものだっただろうか。 刻々と戦場の様子が変化していっている。決着がつくのも時間の問題。この戦いの勝利したものが、ヨーロッパ州の王者。 次々に倒れていくフランス軍の兵士達。同じく倒れていく神聖ローマ軍の兵士達。残るは神聖ローマ、そしてフランス軍筆頭ナポレオン。 両者が向き合い。両者が睨み合う。 永遠とも言える時間、刹那とも言える時間が過ぎた。 その沈黙を破ったのは、神聖ローマだった。 「俺はお前を倒して、ローマ帝国になるんだっ!」 「はん、笑わせる!このチビすけが!このナポレオン様を倒せるとでも思ってるのか!」 「倒すさっっ!」 そうだ、後戻りは出来ない。しようとも思わない。共に戦ってきた戦友達。犠牲になっていった戦友達。そいつらに顔向け出来なくなるようなことはしない。 戦友達のためにも、俺を待っているあいつのためにも、 お前を倒して俺が勝つ! 両者はぶつかり合う 両者は鮮血に濡れた剣を振りかざしながら 双方の距離は縮まっていく 双方は睨み合い 双方は心臓を狙い 双方に剣を押し出して―― 互いに互いを避けようと体を翻し 互いに互いを傷つけるように 互いに互いを殺そうと 互いに互いの存在を許さないように 斬り合う二人は動くことを止めず 斬り合う二人は殺気を奮い 斬り合う二人は美しい剣舞を披露しているようだった 永遠にこの剣舞が続くように思えたが、ナポレオンの剣が神聖ローマの肩を掠めた。 「つっ…。」 神聖ローマの動きが刹那に止まる。ナポレオンはこの機を逃さない。神聖ローマの背後に回り、背部を大きく十字に斬りつけた。 「ぅがぁあぁ、ああっあぁぁ!?」 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!俺は斬られたのか?俺は肩を、背中を、斬られたのか?俺は俺は…。俺は負けたのか?俺はローマ帝国にはなれないのか?俺は喪っていった戦友の敵もとれないのか?俺は消滅してしまうのか? 俺は…もうイタリアには会えないのか? 他者の鮮血によって緋から酸化し錆び付いた色に染まっていた神聖ローマの服が自分の鮮血によってまた緋へと染まっていく。神聖ローマは動かなくなった。ぜんまいが止まった人形のように生気を感じることはなく、その目には何も映ってはいなかった。 「ッふ、手こずらせやがって黙ってすんなり死んどけってのAu revoir Un jeune chevalier(あばよ、小さな騎士さん)。」 「ぁ、うぁ、っは…ィタ……リ…っ!」 神聖ローマは何かを捕らえようと手を空にかざそうとした。神聖ローマの手は何も捕らえることはなく、虚しく空を舞った。 |
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