汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


002


「皆、席に着けー。今日このクラスに立海から転校生が来たぞー。藤ケ院、自己紹介してくれるか?」

「はい、今日からこのクラスでお世話になります藤ケ院成実でございます。どうぞよろしくお願いします。」

深々と丁寧に頭を下げて改まる。その仕草だけで演劇の舞台上であると錯覚させた。このままスタンディングオベーションをしてしまいたい気持ちにクラスメイトは陥ったが、直ぐに正気に戻り拍手をするだけに留まった。

「聞いたかー?あの藤ケ院家の者だ。失礼の無い様にな。お前らの粗相で担任の俺が舞台に出禁になったら俺、泣くぞー。泣くどころか八つ当たりでお前らの成績下げてやる。じゃ、そういう事で……で、藤ケ院は滝の隣に座るんだったな。」

「はい、家の者にそう言いつけられております。」

成実は担任に指示された通りに滝の席の隣へと歩いて行ってその席に座った。そのすぐ後担任は一時間目は自習だから大人しくしとけよ、と言ってクラスから出て行く。

出て言った瞬間、クラスメイトは成実の周りに密集した。質問したいことがたくさんあるのだろう。
しかし成実の優雅な仕草で口持ちに指をあて、シィ…っと外野に黙る様に伝えた。辺りはその仕草を見て一瞬で静かになった。

「お久しぶりです萩之介。」

「そうだね。このキャラを学校で見ることは小学校振りかな。いつまで黙っておくの?そのキャラを崩すことは許さないけど、言っておかないといけないんじゃないかな?」

「そうですけど、みんなの夢を壊すことになるのではないかな?と配慮しまして。」

「なに気を使ってんの?勘違いした男が君に告白なんてしてくるんだよ?立海でウンザリって言ってたじゃないか。」

「嗚呼、確かにそれは生理的に受け付けることができません。ここで宣言しておきましょう。」

成実は席から立ち上がり先生が立っていた教壇へ向かった。歩くだけでも凛とした空気が流れる。そんな姿に酔いしれるB組男子諸君。一目惚れが9割を突破している。
しかしその酔いも吹っ飛ばされる行動を成実はやってのけた。
片腕を着物の袖から抜き、襟から腕を露出させた。必然的に胸部を露出する羽目になるのだが、それが狙いでの行動だ。別段、性別は男で露出させてはいけない部分ではない。しかし、成実を女性だと勘違いしている人たちにとっては衝撃的すぎる光景である。


「こんな成りをしていますが、私は立派な男でございます。間違っても私に思いを伝えぬようお願いいたします。」

「「「え、ぇええええええええええ!?」」」

割れんばかりの絶叫が教室内でこだました。

絶叫も落ち着き、成実の着物のお直しが終わったところで本気の質問攻めにあう。
なんで女装をしているのか、という質問は無かった。
何故なら藤ケ院家と言うのは跡部家と同じ位有名で、その中でもその家の男子は将来的に女形になるために幼いころからその稽古を積むと言う。そして日常から女の格好をすることによって稽古以外でも無意識のうちに女形の仕草を混ぜて行けば更なる精密な技術を磨くことが出来る。
有名な家だからこそ周りの人を巻き込んでこの様な大規模な練習が出来るのである。

「はー、びっくりした。そんなんだったら早く言ってくれよ!俺、マジでお前のこと女かと思って惚れたじゃねーか!」

「フフ、申し訳ありません。このような恰好は藤ケ院家で決められているので、私の一存で変更することができませんでした。」

「ねぇ、その稽古は知ってたんだけど、本当に女子の格好をする必要があるの?」

「よく考えてみてください。男性の格好をして女性の仕草をしたとき、異様な雰囲気になってしまうでしょう?」

「うーん…ホントだッなんかキモイ!」

「その髪型ってカツラ?」

「いえ、地毛です。このくらいの長さがあった方が、カツラが被り易いんです。後れ毛が出にくいんですよ。」

「じゃぁさ、じゃぁさ、滝君とはどんな関係なの?さっきとっても親しげだったけど…?」

「萩之介と私は親友であり、私の御付きです。私を守って下さるとても頼もしい方です。」

「そうなんだけどね、実際はあんまり後者は必要とされてないかな。成実自身強いから、僕はサポートだけする感じ。あ、でも街に出て成実が変な奴とかにからまれたら僕が助けないとね。一応女の子って設定なんだし。」

「それは言わないで下さい。私は女の子としてか弱いのですから。あぁ、でも確かに家に言われていましたね。町では絶対にか弱く振る舞うように、と。襲われてもやんちゃはしない様に………だから立海に通っているときは迎えが毎日来ていたのですね。」

「そうだよ。僕って言う御付きが居ないんだからそんな無防備な成実を町に放つことなんてできないよ。」

「過保護すぎですよ、しかし…そのおかげで今回は楽しめそうですけど。」

「そういえば藤ケ院君ってなんで転校してきたの?」

「それ聞いてしまいます?それはですね…この学校で楽しいことが始まるって教えていただいたからです。私はね、楽しいことがだぁい好きなんですよ。」

目が柔らかく弧を描き、指で口元を恥じらうように隠す。その指で隠れていない口角が少しだけ上がっていた。なんとも妖艶な笑みである。

「皆さんにお願いがあります。私ののことを呼ぶときは藤ケ院か藤ケ院さん、成実さんって呼んで頂きたいのです。あ、成実ちゃんでもいいですよ?くれぐれも君だなんて呼ばないようお願いいたします。私は一応女として生活してるのですから。」

「美しい……ッ。」

クラスの心が一つになって羨望の眼差しを成実に向ける。


「私が美しいと?存じ上げております。」

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